北海道の No.495 白雲山1186m 令和7年(2025年)7月10日(木) ![]() |
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7月10日(登山日)=然別湖畔温泉~白雲橋(登山口)~白雲山1186m~コル~湖畔~白雲橋~然別湖畔温泉 【歩行時間: 3時間30分】 7月11日=然別湖畔温泉-《宿の送迎車・約45分》-新得10:35-《特急おおぞら4号》-12:29札幌~北海道大学植物園を見学~札幌15:33-《快速エアポート》-16:17新千歳空港17:20-《peach》-19:05成田空港… → 地理院地図の該当ページ(白雲山)へ 去年(2024年)の11月某日の、NHKのテレビ番組「にっぽん百低山」で、北海道の然別湖(しかりべつこ)の南岸に聳える白雲山(はくうんざん・1186m)が取り上げられた。酒場詩人の吉田類さんののほほんとした語り口調や、その画像の“ひっそり感”に魅せられたこともあるけれど、田中澄江さんの「新・花の百名山」に取り上げられていたことも思い出して、是が非でも登ってみたくなった。で、今春から宿の手配や飛行機の予約をとって、満を持していた。 指折り数えた(私達の山旅の)その日が、とうとう訪れた。天気予報はイマイチだが、何とかなりそうな北海道の空模様で、私達夫婦はウキウキと出掛けた。
●7月9日: 東京…然別湖畔温泉 羽田空港を8時15分発のAIRDO-015便に乗ると、新千歳空港には9時45分に着く。それからJR区間快速エアポートで次の駅の南千歳で降りて、待合室で時間を過ごしてから、11時17分発の「帯広行き・特急とかち3号」に乗り換える。そして、その(石勝線の)車内で…車窓からの景色を楽しみながら…羽田空港で買ってきた空弁を食べる。…と、ここまではいたって順調だったのだが、突如スマホが鳴って、私達の長男から電話が入る。…なんでも、急病で、明日から2週間の入院だという。両親の私達に心の負担をかけさせたくないので連絡するかどうか迷ったというが、(入院の際の)緊急連絡先に私の携帯電話番号を病院に知らせたので、取り敢えず連絡したとのことだった。「心配しなくていい」と言ってくれた長男(あぁ、もう50歳を過ぎたオッサンだ)だったが、もうこのときから私達の山旅は…その情緒的な面において…大きく変容した。 新得駅のホームに降り立ったのは定刻の12時53分。然別湖畔温泉「ホテル風水」の送迎車が迎えに来てくれていた。 20年前(2005年7月)のトムラウシ登山の際に、この新得駅前から(1日に1本の)拓殖バスに乗ってトムラウシ温泉まで行った思い出が私達にはある。 「なんか、駅前の感じなど、きれいになって、随分と変わったみたいだなぁ…」 「やじろべえ形のモニュメント(*)はどこかしら?」 「あるある、あそこにあるよ。あれもその位置が変わったような…」 などと会話しながら、ホテルの送迎車に乗る。北海道らしい真っ直ぐな道を走り、鹿追町の目抜きを通り過ぎ、道道85号線を然別湖へ向かい高度を徐々に上げる。途中の扇ヶ原展望台で若くて無口な運転手さんが車を止めてくれたので、南面の十勝平野やその右奥の日高山脈を、薄靄の中に辛うじて眺めることができた。 然別湖畔温泉「ホテル風水」にチェックインしたのは午後2時前だったが、宿のスタッフは私達をやさしく迎え入れてくれた。 夕飯までの数時間、すぐ近くのビジターセンターを見学したり、湖畔を散歩したり温泉に浸かったりして、まったりと過ごした。 何気に、佐知子に何時もの活気がない。口数も少なく、元気がない…。 然別湖は北海道で最も標高の高い場所(標高810m)に位置する自然湖(火山活動による堰止湖)だという。部屋の大きな窓や風呂場などからはその然別湖が眼下に見下ろせて、対岸には明日に登る予定の展望山1174mと白雲山1186mが並んで聳えている。双耳峰の展望山は別名を「くちびる山」と呼ぶそうだが、なるほど、そんな感じだ。 * 新得駅前広場の重心モニュメント: 北海道の「ヘソ」は富良野市ですが、その「重心」は新得町にあるといいます。それを記念したのが新得駅前のやじろべえ形のモニュメントで、現地の解説板によりますと、町内小学生からデザインを募集し、新得小学校3年の新津美来さんの作品を基本デザインとして、平成5年12月に設置されたとのことです。 * 然別湖畔の散歩で観察のできた樹木(観察順): オガラバナ、ダケカンバ、ハルニレ、ナナカマド、マルバグミ、ヤマハンノキ、ツルアジサイ(花)、ミヤママタタビ、トドマツ、(アカ?)エゾマツ、シナノキ…など。足元のチシマザサとアキタブキが印象的。 ●7月10日(登山日): 白雲山登山 昨夜から佐知子は殆ど眠れなかったらしい。バイキングの7時からの朝食はけっこう(私と同じくらい)食べていたので、少しは安心したけれど、体調はイマイチのようだ。で、きょうの登山は私一人の単独行になった。コースも予定していた天望山をカットして…展望山の東麓にある北海道三大秘湖の一つ・東雲湖や日本最大級といわれる風穴地帯などを見ることができないのはチト残念だが…白雲山だけの周回コース(半日コース)を辿ることにした。 ホテル前から歩き始めたのは午前7時半頃だった。外気はひんやりとしていて、長袖のシャツでちょうどいい陽気だ。 昨日の午後に然別湖畔を散歩した際に、湖畔トンネルの入り口付近にパトカーが停まっていて、数名の警察官がウロウロしていた。聞いてみると、クマが出たとの情報で出動した、とのことだった。…それを思い出して、やっぱり、心と身体が緊張する。雲が低く垂れさがってきた。道のあちこちにはシカの真新しい糞が転がっている。ザックに括り付けた熊鈴の音が響き渡る。 20分ほど湖岸の道を歩き、白雲橋バス停の交差点を左折して、登山道入口前の広い駐車場に着く。車は3台しか停まっておらず、辺りは閑散としている。左手の湖岸に遊覧船を引き上げるのに利用する「湖底線路」がある。湖面近くを走るその線路の景色が「千と千尋」の一場面と似ているとして、近年では人気の撮影スポットであるらしい。…そんな景色をざっと見てから、ザックから取り出したストックを伸ばして、右手の登山口から登り始める。 けっこうな急傾斜だけれど、登山道はよく整備されていて歩きやすい。トドマツや(アカ?)エゾマツの針葉樹にオガラバナやダケカンバなどの広葉樹の交ざる、いかにも北海道らしい植生だ。ミヤママタタビの白い葉が、なんか懐かしい。…やがてガスが出てきて、その樹林が幻想的な情景に移り変わる。足元の所々にはゴゼンタチバナが群生して咲いている。マイヅルソウは実をつけ始めていて、その薄緑色の実は間もなく赤く熟す筈だ。黄色に可愛らしく咲いているのはオトギリソウ属の一種(イワオトギリ?)かな。ハナニガナも少し咲いている。…林床の主は矢張りチシマザサだ。 ダケカンバなどの樹高が低くなってきて、足元がガレてきた。この葉は、あっ、ハクサンシャクナゲだ!と思ってから少し進むと、急に目の前が開けて景色が一変して、岩ゴロの山頂部の下部にひょいと出た。…この苔の生えた岩ゴロ(ゴーロ帯)が、年寄りの私にはけっこうな難所で、ここからピークに至るまでの約10分間は、自身の拙い登山技術を駆使しての…つまり岩にしがみついての…必死のロッククライミングとなる。…若いころならば、こんな処は屁でもないのだが…。 * 田中澄江さんの「新・花の百名山」の該当項(白雲山)では、この山頂部の“歩きにくい大きな岩礫の連なり”を登ったときの様子を「こけつまろびつ(=倒れたり転がったり)」と表現されていますが、さもありなんと思いました。 まぁしかし、なんとかその山頂部手前の(私にとっての)難所(ゴーロ帯)を登り切り、山頂標識の前でひと休み。ガスで展望が無いのが残念。…然別湖の奥に聳えるウペペサンケ山を見てみたかった…。辺りはしーんとして、誰もいない。…そういえば、歩き始めてからは誰にも出会っていない。 急に寂しくなって、少し下った小平地の小岩に腰掛けて…スマホが4本線だったので…ホテルで待機している佐知子に電話した。随分と長い呼び出し時間のあとに電話に出た彼女は、なんか、眠りから覚めたときのようなリアクションだった。でも、とりあえず元気そうなのでほっとした。辺りにはミヤマハンノキや潅木となったダケカンバなどが疎に茂っている。ナナカマドの類(ホザキナナカマド、ウラジロナナカマド)やガンコウランなども少し生えている。本州中部では標高2000m以上程度の亜高山帯~高山帯の様相だ。小岩の隙間に小群生しているイワブクロ(タルマエソウ)が、釣鐘型の合弁花を薄紫色に咲かせている。ヤマハハコは未だ咲いていない。 充分に休憩してから、下山開始は9時50分頃。ガスの樹林をすたこらと下る。オオコメツツジが小さくて愛らしい白花を咲かせている。ハナニガナやゴゼンタチバナも相変わらず咲いている。トリアシショウマの群生も見事だ。ヨツバヒヨドリやミヤマウツボグサも少し咲いている。…とはいえ、実際のところは、全体的に目立って咲いている花は少ないと感じた。この山の花の盛期は(多分)6月上旬~中旬頃で、今はその春の花と夏の花の狭間なのかもしれないと思った。 展望山とのコルまで下ってから左折して、更に湖岸まで下る。霧のかかった湖面を樹林の隙間から右手に眺めながら、遊歩道的な湖岸の道を進む。途中、前方7~8mほどの距離(近い!)に、道を横切ろうとするキタキツネに遭遇した。はっとして立ち止まったら、キツネも立ち止まって、暫くの間見つめ合ってしまった。やがてキツネは山側へゆっくりと歩いていったが、いい生き物に出遭ったという幸福感に包まれていた私は、暫く固まってしまった。 白雲山登山口に戻ったのは11時20分頃だった。ここから然別湖畔温泉のホテルまでは、昨日から何回も通っている西岸の遊歩道を辿って、20分足らずの歩程だ。熊鈴を鳴らしながら、ゆっくりと歩こう。 ホテルの部屋に戻ると、佐知子は爆睡していた。…やがて起きてきて、持参した昼食用の菓子パンやホテルの夕食(コース料理)を残さず食べて、ほぼ完全復活したようだ。やれやれ…。 ●7月11日: 然別湖畔…札幌・植物園見学…東京 朝の5時半頃、目覚めると電気がつかない。テレビもつかない。停電のようだ。フロントへ行くと、集まった数名の宿泊客たちにホテルのスタッフが説明している。…未明の2時頃から、外の柱上変圧器(トランス)に不具合が生じているとのことで、復旧までにはもう暫くかかりそうとのことだった。停電なんて、なんか懐かしい。私達が子供のころにはちょくちょく停電があって、夜はロウソクの火で凌いだものだった。 停電だけれど、入浴は可能とのことで朝風呂をたっぷりと味わって、スタッフたちの努力もあって、7時からの朝食も無難に摂れた。それから朝の散歩に出て、然別湖畔のあちこちを観光する。…ホテル前の電柱横には工事関係のリフト車が停まり、作業員が柱上トランスの交換工事を行っている。こういうのって、案外と貴重な経験だ、多分。 宿の無料送迎車で新得駅まで送ってもらう。乗客は、来たときも帰りのときも私達だけだ。…新得駅発10時35分の札幌行き「特急おおぞら4号」にはまだ時間があるので、きょうも静かな駅の付近をぐるっと散策して、20年前(トムラウシ登山)にお世話になった駅前旅館「宮城屋」を懐かしく確認してみたり、駅前広場の重心モニュメントをじっくりと見学したりして時を過ごした。…JR石勝線はシカの衝突事故の影響で少し遅れていた。…う~ん、いかにも北海道らしい…。 昼食は札幌の街で味噌ラーメンなどを食べた。それから去年の6月のニセコアンヌプリ登山の際に立ち寄った(札幌駅からほど近い)北海道大学植物園を再訪して、前回は時間があまりなくて物足りなかった植物観察の、リベンジが叶った。…と、実際は、それでも全然時間が足りなくて、この植物園の大きさをしみじみと実感したのだけれど…。 そして新千歳空港の売店でお土産をたくさん買って、17時20分発のpeach-580便に乗って、東京への帰路に就いた。 クマのことや宿の停電のことや、長男や佐知子の不調のことなど、いろいろとあったけれど、結果的にはとても素敵な私達の山旅だった。三日間眺め続けた然別湖の情景は、多分、ずぅ~っと忘れることはないと思う。 * 後日談: 長男の病気は快方に向かっていて、予定通りの退院ができそうです。 ![]() ![]() 佐知子の歌日記より 近くに住む娘に頼み帰京せず然別湖へ向かうこととす 眠られず朝になっても力抜け登山はやめて宿にて過ごす 朝からの宿の停電に携帯の電池がないと夫が慌てる 札幌の植物園を歩きたり息子の病心配しつつ |