佐知子の歌日記・第五集
佐知子の歌日記・第九集
平成26年10月〜12月
はずすのは辞書をひくとき かけるのはテレビ見るとき わたしはだあれ?
 
→答え・近視メガネ
「秋」にのみ表紙がかかるすりきれた 父の形見の俳句歳時記
朝ドラの「マッサン」見てからウィスキーを三年ぶりに飲む夫である
ウィスキーを口にふくんで飲みほすと なぜだか「カァッー」と言いたくなるね
急坂をすべらぬように落ち葉踏む 日暮れ気になる本社ヶ丸
髪たばね少年野球の一員の少女はピンクの自転車をこぐ
ひとすじの蜘蛛の糸にからみ揺る 頭高山
(ずっこうやま)の黄色い葉っぱ
珈琲を上手にいれる夫がおり 夜の八時にくつろいでいる
歌声のテレビに拍手プロの技 由紀さおりと森山良子
クラクションが響きわたる交差点 謝っている自転車の女
「おかえり」を母に云いたく待つ孫は 友の「あそぼ」を断りにけり
メニエールかしら 目が回り壁に手をあてトイレゆく宇宙船への予約はしない
ヘルメットを脱ぐと白髪がそこここに もう暴走はせぬ隣人なり (10.4)

はずすのは辞書をひくとき かけるのはテレビ見るとき わたしはだあれ? (10.4)
 
→答え・近視メガネ

うっとうしいかけてはずして一日中 メガネのいらない良い目がほしい (10.4)

忘れ置く隣の部屋のケータイ音 孫らは同時に「鳴ってる」と言う (10.6)

虫の音にさそわれ歩く宵の道 雲のまにまに月流れたり (10.6)

本物を見たことのない我のため 赤マンマの写メ夫より届く (10.7)

ささくれてどうにもならない胸のうち あの大空へ吹き飛ばしたい (10.7)

あちこちのボタン押せどもグラタンを焼くに手間取るオーブン操作 (10.8)

常連の候補者となるノーベル賞 村上春樹よ下手になるべし (10.9)

「秋」にのみ表紙がかかるすりきれた父の形見の俳句歳時記 (10.12)

いつもより髪を短くしたためか やせたねと言う友ふたりあり (10.12)

朝ドラの「マッサン」見てからウィスキーを三年ぶりに飲む夫である (10.14)

ウィスキーを口にふくんで飲みほすと なぜだか「カァッー」と言いたくなるね (10.14)

木のそばを過ぎたころ知るよき香 臭覚にぶい我の金木犀 (10.17)

点数を競いながらも笑みうかべ 輪投げに遊ぶ老女の集い (10.17)

洗いたる障子をほして隣人は 正月準備を皆に知らせる (10.19)

葉を切られ白肌くねらせポーズとる 歩道のスズカケはじらいながら (10.20)

来年の登山予定を夫と練る いつでもどこでもとはいかぬゆえ (10.21)

池袋のホームにあふれる若者は 吸われるように電車に乗り込む (10.22)

しまわれたストーブ出して火をつける 寒がりの夫自主性はある (10.23)

 
西上州の諏訪山登山 (10.25)
暁の首都高とばし山へ行く 東京タワーが笑っているよ
体力の衰えを知る諏訪山に 登って下りて九時間かかる
持ち帰ることのできない紅葉と瀬音を胸にきざむ諏訪山
幾重にも連なる山並み見ておれば どうでもいいことしばし忘れる

理由などないけどなぜか決めている ビオラの花色むらさきと黄に (10.27)

母のこと「文子さぁーん」と呼んでみる 目をあけすぐに「はぁーい」の返事 (10.31)

まっすぐに我らを見つめうなだれる 義母のすべてのボディーランゲージ (10.31)

母たちの見舞い帰りの夫と我 無言の時をただ分かち合う (10.31)

流しにて立ち食いしてから皿に盛る 友よりの柿とろりと甘い (11.1)

足早に帰る夕暮れ雲の間に 淡い月みえ歩みゆるめる (11.4)

いつもより一時間遅く歩き出す 見慣れぬ人の多い公園 (11.6)

はや黄かと思えばとなりはまだ緑 それぞれに進む黄葉である (11.6)

 
御坂山地の本社ケ丸登山 (11.8)
半身の富士仰ぎつつあたたかなココア味わう本社ケ丸に
若者は60リットルのザック置き 縦走の山さらりと指さす
急坂をすべらぬように落ち葉踏む 日暮れ気になる本社ヶ丸
本社ケ丸 無事の下山に乾杯のビールするする喉すべるなり

その苗字考えなしにもう読めり 大活躍のテニスの錦織 (11.12)

さえずりが歌っていると聞ける日は ジョギングの足かーるく弾む (11.14)

 
甥の結婚式に参列 (11.15)
黄ばんでる式服用のネクタイを 漂白したのち結ぶ夫なり
スカートと5センチヒールにマリオネットのごとく歩めり みなとみらいを
世話をする甥のまなざしあたたかく ボケてる母が結婚式にいる
にぎやな披露宴なり 気取らないたぶんいつもの新郎新婦
ほめられてはずかしそうに目をふせる 水玉ドレスの似合う孫なり

片足で袋を押さえ口でつく サンドイッチはカラスの朝食 (11.17)

ボケたのか難聴なのか遠くなる耳に鋭い夫の声ひびく (11.17)

生協の忘年会の予定日を 暦にしるす花まるにして (11.19)

甘辛いアーモンド入りのたつくりを うまいと言った七歳の孫 (11.19)

この傾斜五年ののちは漕げるかな 陸橋を越え母の施設へ (11.20)

挟まったケーキのナッツが取れなくて 舌をころがし百面相をする (11.20)

白菜とたくあん漬けた樽を置く 我が家の玄関グルメの入り口 (11.23)

髪たばね少年野球の一員の少女はピンクの自転車をこぐ (11.24)

長い髪きりりと束ねおとめごは 少年野球のユニフォームを着る (11.24)

 頭高山(渋沢丘陵)の軽ハイキング (11.27)
朝七時エスカレーターは下りのみ 相鉄線の横浜駅は
親指を流れるように画面繰る 女子高生のスマホ使いよ
ひとすじの蜘蛛の糸にからみ揺る 頭高山
(ずっこうやま)の黄色い葉っぱ
ペンあれどメモ紙忘れ思いつく歌のきれはし新聞紙に書く

予告せずかけ足で来る誕生日 今日から夫は♪ピカピカの老人 (11.29)

分離してチーズフォンデュー失敗す 鍋とワインのせいにしておく (11.29)

珈琲を上手にいれる夫がおり 夜の八時にくつろいでいる (11.30)

炊事終えハンドクリーム塗る夜半に 今年も冬が来たと思えり (12.3)

来年は四十歳になる息子 嫁はいつ来る体重いつ減る (12.3)

釣りものの鯵を刺身にさばくとき 澄む目にみられ包丁すべる (12.5)

歌声のテレビに拍手プロの技 由紀さおりと森山良子 (12.6)

押しつける目覚まし時計にあと五分の 眠りを請う初冬の朝
(あした) (12.9)

クラクションが響きわたる交差点 謝っている自転車の女 (12.9)

「おかえり」を母に云いたく待つ孫は 友の「あそぼ」を断りにけり (12.11)

おもちゃ箱のブロック捜す音響く 居間にひろがる孫のつくる街 (12.11)

あらあらら雪が降ったらどうしよう 夫は歯痛に晩酌を止む (12.11)

一年を振り返るだけでいいのかな 五年前の家計簿をみる (12.16)

目の病の現状維持はひとときの明かりをそっと照らしてくれる (12.19)

 
メニエールかしら
目が回り壁に手をあてトイレゆく宇宙船への予約はしない (12.20)

ほえたてる二匹の子犬におだやかな眼差し送るセントバーナード (12.25)

「今年はもうあと何日」と言わないで 残りの日々も重さは同じ (12.27)

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