佐知子の歌日記・第五集
佐知子の歌日記・第八集
平成26年7月〜9月
息を止めぽとりと落とす目薬は 涙となりて光の杖に
目に効くとほんとは信じていないけど ブルーベリーを朝ごとつまむ
獅子岩や屏風岩を攀じ登る 鎖はゆれる梯子もゆれる
地境のアスファルトより這い出でて つゆ草は独立を宣言す
山道を霧につつまれ君と行く 赤鞍ガ岳を二人占めする
九時に寝て夜中の二時に目がさめる 老人ビギナー先は長いぞ
更地には名前わからぬ花が咲く 三月まえまで斉藤さん家(ち)
歯医者にて親知らずぬく 何事もなかったような二日が過ぎる
涼しさを手土産にして降る雨は 葉月の緑茶うましと言わせる
長月に新緑の海をみたような 光にゆらぐ黒岳のブナ
ほんとうの空に流れる白すじの 雲のびやかに安達太良の山
感想の違いたのしむ歌会終え すがしここちに梅雨晴れ歩く (7.1)

爪ほどの一人前の形して にがうりはもう網目にたれる (7.3)

梅漬けて重石を減らす昼下がり 十年つづく手仕事おもう (7.4)

息を止めぽとりと落とす目薬は 涙となりて光の杖に (7.5)

寝不足と頭痛の一日
(ひとひ)梅雨寒に ふうせんかづらの小花が咲けり (7.5)

ムコ殿の誕生祝これしかない 自転車にのせビールを届ける (7.6)

台風の前ぶれの風容赦なく 雲をどんどん押しのけて吹く (7.10)

目に効くとほんとは信じていないけど ブルーベリーを朝ごとつまむ (7.10)

深呼吸できずに胸は痛くなり 息を吐きつつ公園歩く (7.10)

 子持山登山 (7.12)
獅子岩や屏風岩を攀じ登る 鎖はゆれる梯子もゆれる
頂上に群れて飛び交うアキアカネ すっかり夏の子持山なり
みどり葉にやさしく抱かれ山登り 君と二人の豊かな時間

つぎつぎとまっ赤に熟れてミニトマト 皮はかたいが味はほどよし (7.15)

暑がりの我に向け置く扇風機 夫は好まぬ機械のそよぎ (7.15)

二十分えんぴつ握り一日を 振り返っても揺れないハート (7.16)

朝顔に話しかけても次の日は 花とじている朝日のなかで (7.16)

昨日より一時間はやく散歩する すれちがう人も犬も違うなり (7.20)

地境のアスファルトより這い出でて つゆ草は独立を宣言す (7.21)

黒雲をちらりとにらみ急ぎ足 今日は早めに散歩を終える (7.21)

炎天にひとつぶひとつぶ裏返す 梅干づくり十年が経つ (7.23)

にぎやかな孫はプールゆき おとなしい孫とそれぞれ本読むリビング (7.25)

孫たちが我が家であそぶ夏の日は エンゲル係数たちまち上がる (7.26)

日焼け止めを塗り忘れたと気づいたは 歩いて十分のちのことなり (7.27)

電話にて「大きな虹!」と告ぐ君の 声は弾んで六十四歳 (7.27)

 曽我丘陵ハイキング (7.31)
録音の小鳥のさえずり人の間を漂い流る横浜駅に
冬晴れには富士や箱根がさぞかしと 酷暑に歩く曾我丘陵

汗にぬれ徒歩二十分の胸元に 母の譲りのネックレス光る (8.2)

フィナーレに教え子の目は気遣いの 足をひきずる先生へ向く (8.2)

ビール飲みタバスコ色のピザつまむ 口内炎の夫の食欲 (8.2)

アカシアの葉にしがみつく抜け殻は 今鳴く蝉のものかも知れず (8.3)

夕食中 静かにしてと孫は言う 「妖怪ウォッチ」見ているときは (8.4)

下駄をはきカラコロロンと水遣れば 鉢の朝顔わらっておりぬ (8.6)

 尾瀬沼と大江湿原を散策 (8.8〜9)
雨のなか言葉少なく登る道 尾瀬沼見えてほほえむ仲間
尾瀬沼を見下ろすように聳えてる 燧ケ岳を今回登らず
片手には花図鑑もち木道を 踏みしめ味わう尾瀬沼時間
星・平野・橘のみの姓で成る 峡深い里・檜枝岐村
木立背に石積の席は段になり 村の歌舞伎は百年つづく
山奥の村の目抜きに店ならぶ 評判どおり裁ちそば旨し

 赤鞍ヶ岳登山 (8.16)
山道を霧につつまれ君と行く 赤鞍ガ岳を二人占めする
中央道スピードあげても掴めない 東の空の虹の両端
自販機のおつりを握る力なく 手からこぼれる一日に二度

押入れの片付けのほか何もせず テレビのリモコン我がものとなる (8.17)

夕方の五時のチャイムにせかされて エプロンきりり主婦へと戻る (8.18)

九時に寝て夜中の二時に目がさめる 老人ビギナー先は長いぞ (8.21)

更地には名前わからぬ花が咲く 三月まえまで斉藤さん家
(ち) (8.21)

夕暮れにアブラゼミ鳴く猛暑日に 水槽からドジョウ跳ね落ちる (8.21)

漫画風の百人一首の解説本 タネあかしする手品師のような (8.22)

これ以上ないほど甘い到来の 西瓜に酔ってビール止む君 (8.24)

昨日より少しは良くなる腰痛は 我の持病のちっぽけなひとつ (8.25)

うす暗く雲が落ちそな一日なり 胸に積もれる塵もまざりて (8.25)

歯医者にて親知らずぬく 何事もなかったような二日が過ぎる (8.28)

涼しさを手土産にして降る雨は 葉月の緑茶うましと言わせる (8.28)

みどり葉のいきおい失せて曇天に 夏バテ気味の公園の樹木 (8.31)

半円にしなる竿先なにもなし 背中まるめて餌つける男 (9.1)

もう沢山と叫んでみたいこの暑さ 十歩あるくと汗がしたたる (9.3)

いつどこに持っていけばいいんだろう 胸のおもりとよごれた空気 (9.3)

 東京港野鳥公園にて (9.4)
白髪の男らはみなカメラ手に 静かに楽しむ野鳥公園
からみつつ小さな白い花咲けり 誰が名付けたヘクソカズラと
花の名は漢字で書くと優雅なり でもこの花はヘクソカズラ 
(Tamu)

楠の切られた株のわき枝には 今ぞと伸びるやわらかきあお葉 (9.8)

気まぐれの雨にたたられ配達の 仕事あきらめ本読む一日 (9.11)

涼しいと掃除機まわし家中をめぐれば暑い Tシャツ替える (9.12)

釈迦ヶ岳と黒岳 (9.13)
頂上はハムシの群れが飛びまわり すぐに立ち去る釈迦ケ岳なり
方角を確かめ心で描いてみる 雲の扉をあけた富士山
熱いのでメガネがくもる ラーメンをすばやくすすって昼食とする
長月に新緑の海をみたような 光にゆらぐ黒岳のブナ
赤白茶きのこが招く山の道 なめこらしきを夫が見つめる

耳鳴りと虫の音まざるその調べ 我のみが知る夜想曲である (9.17)

まんまるの大きな白菊飾られて 少しはにかむ父の墓なり (9.20)

くっきりと左右に白い雲ならび 青空に写す胸のレントゲン (9.21)

台風の近づく予報に三日後の 登山を憂うも仕度はしておく (9.23)

 
錦秋の安達太良山 (9.26〜27)
快晴に日光・那須の峰々を 車窓に顔寄せ目で追いかける
山道にりんどうここぞと咲き誇る 濃紫とはこの色のことか
ほんとうの空に流れる白すじの 雲のびやかに安達太良の山
山小屋の風呂より見える山肌の 紅や黄の葉が陽に輝けり
夕飯はカレーライスのくろがね小屋 定番うましほほえみの味
山並みは錦ちりばめたおやかに 登るみちのく安達太良連峰
前うしろ右も左もすきまなく 安達太良山の粧いにけり

噴火せし御嶽山の灰と石 ああ登山者の命うばえり (9.27)

これがもし二年前のことならばと 画像ふるえる御嶽の噴火 (9.28)

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