佐知子の歌日記・第五集
佐知子の歌日記・第十集
平成27年1月〜3月
霜柱を踏みつつ歩く公園の行きずりの人「寒いね」と告ぐ
おめでとうにただ頷いて目を閉じる卒寿の母は車椅子にいる
マンガからゲームにノート靴下に 妖怪ウオッチ出没をする
白銀に浅間の峰は輝けり 君は何枚写真を撮るや
ゆったりと紅茶をすする昼下がり 左回りに金魚が泳ぐ
おそろいの黄色い帽子の少女らは 黒・茶・ピンクのランドセル背負
(しょ)
なんとなく覘くつもりが五点ほど買うことになる百円ショップ
寒くって朝の散歩を休んでる コンビニ脇の梅咲いたかな
梅が咲き桜のつぼみがふくらむと 花粉症の夫書斎にくらす
強風に散れる花びら白梅の香りものせて路地のにぎわい
思い出の話のなかに父はいて 小ぬか雨降る十三回忌
歩きつつ視線はつぼみを離れない 晴れ渡る日にさくら待つ人
争いと事故のつなぎにどの局も 桜開花のニュースを流す
やわらかな日差しにそっとペダル踏む 陽光桜七分咲きなり
風に舞う粉雪ちらり肩に受け 娘一家が来る元旦昼 (1.1)

年女だからと孫に乾杯の音頭とらせる正月の宴 (1.1)

手作りの塩辛ほめられコーヒーの空き瓶に詰め土産にわたす (1.1)

 
箱根駅伝を観戦 (1.2)
ヘリコプターの音近づくと見物人は半歩乗り出す箱根駅伝
まっすぐに前を見つめて走りきる 箱根駅伝の大学生は
十歳の我と父の声たかく 見物少ない箱根駅伝 (回想)

二十羽のふくら雀が枝に乗り 正月休みのように集えり (1.3)

正月のストレス全部ためこんで 増える体重眠れぬ夜中 (1.3)

映像と記憶でたどる百名山 頂をまた君と登らん (1.4)

霜柱を踏みつつ歩く公園の行きずりの人「寒いね」と告ぐ (1.4)

おめでとうにただ頷いて目を閉じる卒寿の母は車椅子にいる (1.5)

夫の選びしフェルトの帽子あたたかし 福をかぶるがに冬道あるく (1.5)

マンガからゲームにノート靴下に 妖怪ウオッチ出没をする (1.6)

汐留の満月を見て俳句などつくったと言う八歳の孫 (1.6)

三日目の睡眠不足の埋め合わせ 夜八時には眠り姫となる (1.7)

 
配達のアルバイト (1.8)
二百軒の配達地図に浮き上がるピンクマーカー 待ち人に届けん
北風に重ね着をして配達す ひたいの汗をぬぐう十分後

 
上州の岩櫃山登山 (1.9)
幾度か鎖や梯子を頼りにし 岩櫃山の頂上に立つ
白銀に浅間の峰は輝けり 君は何枚写真を撮るや
山里の凍れる道に腰をうち 帽子を夫に拾ってもらう
今回も風呂には寄らず帰宅する 山旅の汗を土産としよう
駅員は指定の予約を電話する 手書き切符で乗る新幹線
朝夕に輪郭きわだつ赤富士を 高架橋の電車より見る

新春の全国対抗女子駅伝 やっぱり秋田は美人県なり (1.11)

お玉かなフライ返しと言おうかな クラフト夫の今年が始まる (1.12)

打ちつけた腰の痛みはやわらぐが 油断のキズにいらだっている (1.12)

相撲女子なる言葉あり テレビには若い女性がたびたび映る (1.12)

十日後の添削を待つ我が短歌 郵便バイクは午後四時に来る (1.13)

ゆったりと紅茶をすする昼下がり 左回りに金魚が泳ぐ (1.14)

手の甲のしわよなんとかならないか スマホ画面をびしびし弾く (1.15)

山に行く夫のリュックの片隅に 我の代わりの沢庵がある (1.17)

体重が3キロ半からデブという領域にいる子の40年 (1.17)

なんとなく覘くつもりが五点ほど買うことになる百円ショップ (1.18)

這いずって引き継ぐための襷投ぐ ルール違反という駅伝競技 (1.18)
 都道府県対抗男子駅伝で、力尽き倒れて這って、たすきを投げて渡して失格に…。

おそろいの黄色い帽子の少女らは 黒・茶・ピンクのランドセル背負
(しょ)う (1.20)

公園の花壇掘り起こされていて 土のにおいを嗅ぎながら歩く (1.20)

重ね着しカイロを背に貼り外に出る 震えてお辞儀のさくら草なり (1.21)

雨の中唄うようにはなれなくて しずしず歩き介護施設へ (1.22)

名を呼べどうつ伏せている義母である 薬が効いていや効きすぎてる (1.22)

 
NHK全国短歌大会に出席 (1.24)
土曜日の渋谷駅前交差点を肩ふれることなくすれ違う
山道で会うことのない若者が まっすぐ歩く渋谷という街
来年はと座席のりだし舞台見る 短歌大会のNHKホール

 
上州バスツアーに参加
白銀の上州武尊の峰々をイチゴハウスのわきから眺む (1.27)

会議室なしで意見を言い交わす マイクにむかいパソコンをうって (1.28)

孫の縫うランチョンマットは ミシン目がとんだりはねたり元気がよい (1.28)

髪型は何が似合うかわからずに美容師に任せて居眠りす (1.29)

 
官ノ倉山ハイキング (1.31)
雪はなくリョウメンシダの観察会になってしまった官ノ倉山
表裏無き両面羊歯の生い茂る 官ノ倉山に雪は積もらず
(Tamu)
頂上より関東平野を見渡して祠に祈る晦日正月
道端のオオイヌノフグリ風にゆれ春が近いと笑っているよ
名物のうなぎたらふく食べながら山に登れる喜び語る

二十日ぶりの散歩にうれし早咲きの白梅二本青空に映ゆ (2.1)

靴ひもを締めたつもりが二度たるむ かじかむ指先明日は節分 (2.2)

ガラス戸を打つように吹く寒風を目張りはせずに我が家へ招く (2.2)

年毎に声は小さくなっていく 「鬼は外」言う孫は八歳 (2.3)

我の咳夜中はげしくなりにけり 夫は苛立ち「何なの」と言う (2.6)

マスクかけメガネがくもるそんな日は 目を閉じそっとハミングしよう (2.6)

「三時間飲み放題」へ夫は行く 熱ある我はりんごをかじる (2.7)

一時間ノートを見つめえんぴつは止まったままで短歌生まれず (2.8)

春色のジャケット・ズボンを並べてる売り場の外はまだ寒いけど (2.9)

匙のゼリー口まるくあけ流し込む 病む前の義母の美しい笑顔 (2.12)

仕切りないタバコのにおいの喫茶店 公衆電話が入り口にある (2.12)

呼びかけに頷くものの声きけず 冷ましたお茶を無心に飲む母 (2.12)

ips細胞つかい失明を止める研究進んでいるらし (2.13)

寒くって朝の散歩を休んでる コンビニ脇の梅咲いたかな (2.13)

 日連(ひづれ)アルプス縦走 (2.14)
車窓よりいつも眺めし里山群 日連アルプスに初めて登る
富士山のせめて肩まで見たいわと欲張りオバサン日連に一言

お雛様を飾らなくなって十五年 ドングリ雛を夫と作りぬ (2.17)

うす暗い雨の夕方コンビニの照明に浮く無言の客ら (2.17)

三年間続いた朝のジョギングに新品シューズを奮発する (2.21)

咲きだした椿めがけて飛んできたメジロが一羽もぐり込むなり (2.22)

金づちでたたけば澄んだ音がする 鉄棒は今点検されてる (2.24)

芋好きのその母に似て孫たちは おしゃべりもせず皿をからにする (2.26)

 8歳の孫の処女作・俳句のつもりだけれど川柳かも…
ドラえもん三十五年おめでとう
ドラえもんタイムマシンをつかわせて

喜んで歯医者に行く人いないけど 予約日忘れる夫である (2.26)

強風に散れる花びら白梅の香りものせて路地のにぎわい (2.26)

四人そろい七段雛を二時間で飾り終えたり雨の日曜 (3.1)

一対の我の立ち雛色あせて 母にねだりし十六の時 (3.1)

五冊目となる短歌メモはたて型のジャポニカ国語学習帳 (3.2)

夫と行く三年ぶりの外食に下戸の我飲む二杯のワイン (3.3)

梅が咲き桜のつぼみがふくらむと 花粉症の夫書斎にくらす (3.4)

こでまりの一日ごとにふくらむ芽 風つよくても春を待ってる (3.5)

一日中マウスあやつるI.T夫と我エンピツのそれぞれの右手 (3.5)

雛壇のネジはずす時孫の目はじっと我の指先見てる (3.7)

天袋に踏み台なしで雛しまう二十二センチの身長の差は (3.7)

片付けているより長いティータイム 十一歳の孫と食うかりんとう (3.7)

思い出の話のなかに父はいて 小ぬか雨降る十三回忌 (3.8)

目をつむりあやとりの糸はやく繰る八歳孫の十指は踊る (3.9)

 鎌倉の源治山ハイキング (3.13)
鎌倉の九十メートルの山に立ち まぁハイキングをしたことにする
雨風にさらされ長谷の大仏は 全角度よりカメラにおさまる
「今日からが解禁日」との呼び声に 生シラス丼するりと食べる
地下街を方向音痴の夫なれど 迷わず行けるビールの「ライオン」

ブロックの塀から伸びる若草の 青の行列そよかぜに揺る (3.17)

愛犬をベンチにすわらせ老人が新聞を読む公園の朝 (3.19)

おおかたの墓には花がいけられて 彼岸中日にぎわう祈り (3.21)

歩きつつ視線はつぼみを離れない 晴れ渡る日にさくら待つ人 (3.22)

争いと事故のつなぎにどの局も 桜開花のニュースを流す (3.23)

やわらかな日差しにそっとペダル踏む 陽光桜七分咲きなり (3.25)

竹の子がたくさんでてくる山持つも 八百屋で購い筍を食う (3.25)

高熱がつづいて三日 義母は今 ゆめとうつつをさまよい歩く (3.27)

 御岳山から大岳山 (3.28)
奥多摩の眠れる山の沢に生う 花猫の目が春を知らせる
ガラス越しの厨房のぞきオムライスの出来上がるさま友に伝える
 帰路、立川駅で途中下車して、オムライスで有名な「たいめいけん」で打ち上げました。

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