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北奥羽・7日間の山旅日記・その@
No.421 姫神山(ひめかみやま・1124m)
令和3年(2021年)9月28日(火) 曇り時々晴れ マイカー利用

「北奥羽の山旅」略図

姫神山の略図
登山前日(9/27)
老杉が並ぶ月見坂(参道)
平泉の中尊寺へ

登山日(9/28)
4〜5台の駐車スぺースあり
一本杉登山口

見るからにウラゴケだ
巨木の一本杉

岩っぽくなってきた
八合目でも一休み

石祠と三角点(右奥)
姫神山の山頂
一瞬、上空の霧が晴れた!

別名キナコダケ:食用は微妙かも
コガネタケ(下山路にて)

姫神山はほんにお姫様

《マイカー利用》 登山前日(9/27)=東京…東北自動車道・平泉前沢IC…中尊寺(観光)…盛岡I.C-《車15分》-盛岡つなぎ温泉 登山日(9/28)=盛岡つなぎ温泉-《車45分》-一本杉登山口〜一本杉清水〜八合目〜姫神山〜こわ坂登山口〜一本杉登山口-《車1時間》-新安比温泉… 【歩行時間: 3時間40分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


 コロナの第5波が終息を迎えているらしい9月の下旬、マイカーを利用しての北奥羽への山旅(岩手県→青森県→秋田県)を決行した。標高1000m以上の東北地方の山稜は紅葉の見ごろと思われる、そんな時季を前々から狙っていたのだ。予定の期間は1週間(6泊7日)で、何時ものことながら運転手は私で、カーナビにその仕事の大半を奪われたナビゲーターは妻の佐知子だ。
 その最初のターゲットが、北上山地の北部に位置する日本二百名山の姫神山1124mだった。岩手山早池峰山とともに民話上では三角関係にあり…、北奥羽三霊山の一峰でもある。
 気掛りだったのは、日本列島の南洋上を北北東へ進む大型で非常に強い台風16号の影響だった…。

●9月27日(登山前日・薄曇): 東京都大田区の自宅を早朝に発ち、常磐道→仙台東部道路→仙台北部道路→東北道、と高速道路を快調に北進する。
 岩手県に入って間もなく平泉前沢I.Cで降りて、行きがけの駄賃に平泉の中尊寺を観光する。私達夫婦にとっては約40年ぶりの中尊寺。こんなんだっけ…? と云いながら、両側にずらっと並ぶ老杉が印象的な月見坂(参道)をなだらかに上り、本堂に参拝したり、拝観券@800円を支払って国宝の金色堂や讃衡蔵(宝物館)などを見学した。…やっぱり全然忘れていて、ものすごく新鮮な気持ちで、平安時代の奥州藤原氏や江戸時代の伊達藩や松尾芭蕉の「奥の細道」のことなど、当地の蘊蓄の重要な一部も復習することができた。
 * 芭蕉が当地で詠んだ句より
  夏草や 兵どもが 夢の跡(兵=つわもの)
  五月雨の 降り残してや 光堂(光堂=金色堂)


 それから再び東北自動車道を北へ走り、盛岡I.Cから西へ約15分、今日の宿・盛岡つなぎ温泉にチェックインする。

温泉マーク 盛岡つなぎ温泉「ホテル紫苑」: 御所湖の南岸に建つ12階建の和風リゾートホテル。「全室がレイクビュー」が売りで、その御所湖を挟んで雄大な岩手山を心行くまで眺めることができるのが何よりだ。部屋や食事やサービスなど、洗練されていて特に不満はない。大浴場の「ひとりじめの湯」や「南部曲り家の湯」など、まったりと入浴することができた。泉質はアルカリ性単純温泉、無色透明無味無臭、(多分)半循環、少しヌルヌル感。いわゆる“美人の湯”だ。バイキング形式の朝食が6時30分から、というのが早立ちのアウトドア派にとっては嬉しい。1泊2食付き一人10,050円(税込み)は割安に感じた。
 ウィキペディアの該当項によると、「繋温泉」の名称は11世紀に源義家が石に愛馬を繋いで入浴したことに由来するそうだ。近年では「つなぎ温泉」と平仮名での表記を用いることが多いという。
 外部サイトへリンク 「ホテル紫苑」のホームページ

●9月28日(登山日・曇晴): 6時30分からのホテルの朝食をそそくさと済ませ、うきうきとマイカーに乗り込む。空は明るいが…何気に、天候が悪くなる前兆といわれる…すじ雲(巻雲)が浮かんでいる。
 国道4号線を北上し、「いわて銀河鉄道」のガードを潜り、渋民(しぶたみ)駅の東側を通過してから県道301号線へ入る。「ねぇ、この地は石川啄木の故郷よ」 と話しかける佐知子に生返事して、「石川啄木記念館」の看板を横目で見やる。
 渋民の町を通り抜けるとすぐ、カーナビに従って右折して、くねくねと細い舗装道をなだらかに上る。前方には姫神山が富士山のような美しい円錐形に見えているけれど、日本山名事典(三省堂)の該当項によると(火山ではなくて)花崗岩の残丘であるという。形も正確には角錐状であるらしい。
 一本杉園地キャンプ場の大きな駐車場の少し先、姫神山一本杉登山口の小さな駐車スペースに着いたのは8時20分頃だった。しめしめ、1台も停まっていなくて、きょうは私達の車が最初だ。地形図で読むと、ここは標高既に約540mだ。
 林道から道標に従って登山道へ入る。暫く進むと立派なスギ林だ。東北森林管理局材木育種センター東北育種場(う〜ん、長い!)による解説板によると、林木の品種改良の観点から特にすぐれた性質をもつ個体(精英樹)が植えられているという。なるほど、根元から上部まで(殆ど同じ太さで)すっくと伸びた見事なスギたちだ。
 間もなくこのコースのランドマーク・樹齢200年をはるかに超えていると思われる一本杉が右手に現れる。ひときわ大きくて立派だが、見るからにウラゴケだ。…だから残ったのかもしれない。奥に水場(神聖な清水)があるが、飲用には適さないらしいのがチト残念だ。* ウラゴケについては武甲山の項を参照してみてください。
 道は徐々に険しくなるけれど、適当な歩幅の丸太階段が整備されている。やがてスギの人工林が終わり、ミズナラやダケカンバなどの自然林に移行する。尾根の取り付き地点(五合目)からは幾分傾斜が緩んで、いい気分の森林浴ハイキングだ。森の脇役ではホオノキとトチノキが目立っている。その他、イタヤカエデ、ハウチワカエデ、イヌシデ、ハリギリ、シナノキ、そしてブナなども少し交じる。細身の樹木が多く、比較的に若い森であるようだ。林床の主役はチシマザサやクマイザサだ。数は少ないが、野菊の類(シロヨメナ?ノコンギク?)がきれいに咲いている。…徐々に岩っぽくなってきた。
 八合目を過ぎて山頂が近づくと木々の葉が色付いてきて、樹間が疎になって明るくなって、ガスの切れ間から下界が見え始める。そして、花崗岩の露岩帯を登りきると石祠(姫神嶽神社)と一等三角点のある姫神山の山頂だった。残念なことに生憎の曇り空で、定評の眺望はイマイチだ。晴れていれば、岩手山などの奥羽山脈や早池峰山などの北上山地の山々が見渡せるというが、このときは南側の眼下に異様な風車群が、薄靄の中に見え隠れしていたのみだった。…何れにしても、永年の希望だった姫神山の山頂に立てただけでも、私達は仕合せだった。
 静かな山頂で小1時間を過ごしてから、下山は北側の「こわ坂コース」を選んだ。下り初めはアルミ梯子や根張りの急勾配だけれど、やがて緩やかな樹林コースになる。植生の変化は上りの「一本杉コース」と殆ど同じようだった。下山口(=こわ坂登山口)からは舗装道路歩きで、クリ拾いなどをしながら楽しく下った。
 出発地の一本杉登山口に戻り着いたのは13時10分頃だった。私達の青色のマイカーは、朝と同じように1台でぽつんとしていた。
 今日の宿はここから車で正味1時間の距離にある新安比温泉だが、まだ充分に陽が高いので、その手前に位置する…桜松神社(さくらまつじんじゃ)境内にある日本の滝百選の…八幡平市の「不動の滝」にでも立ち寄って、ゆっくりと見物(時間調整)することにしよう。

 佐知子の歌日記より
目の前にせまり来るよな岩手山ホテルの窓ゆはみ出しそうに
なだらかに裾を広げて佇める姫神山はほんに姫様

温泉マーク 新安比温泉については、次項「七時雨山」を参照してください。

*** コラム ***
石川啄木の「ふるさとの山」は姫神山!?

 ふるさとの山に向ひて言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな

富士山型のきれいな山容
渋民から姫神山を望む
 石川啄木(1886〜1912)の第一歌集『一握の砂』の第二部「煙」の「二」の最後の一首がこの歌です。この章はあの有名な「ふるさとの訛なつかし停車場の人ごみの中にそを聞きにゆく」から始まって、故郷を複雑な思いで詠った歌が続きます。その中には「かにかくに渋民村は恋しかり おもひでの山おもひでの川」や「石をもて追はるるごとくふるさとを出でしかなしみ消ゆる時なし」なども含まれています。
 ここでさて、啄木にとっての「ふるさとの山」は岩手山なのか姫神山なのか、といった古くからの「ふるさとの山論争」があるようです。一つの象徴なのだからどちらでもいいじゃないか、あるいは両方とも、という意見もあるようですが、ネットなどで少し調べてみると「岩手山派」が圧倒的に多いようです。
 田中澄江さん(1908〜2000)はその著書「新・花の百名山」の「姫神山」の項で、「ふるさとの山に向かいて」の山は姫神山ではないか、と書いています。その理由として、啄木のふるさとの渋民村からの距離が、姫神山の方が岩手山の三分の一(つまり姫神山の方がずっと近い)ということがまず挙げられています。そして第二歌集『悲しき玩具』に収められている「今日ひょいと山が恋しくて山に来ぬ 去年腰掛けし石をさがすかな」をもう一つの理由に挙げています。つまり、“岩手山では、ひょいと恋しくて山に来て、腰掛けることはできない” と断言しているのです。面白い発想で、さもありなんと思います。
* ご意見ご感想は当サイトのBBS(掲示板)をご利用ください。



若い森のようでした
「一本杉コース」の中間地点にて
中腹の紅葉はこれから
下山開始!
山頂直下の「こわ坂コース」

標高1000m以上は紅葉の見ごろ

次項「A七時雨山」へ続く

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