丹沢前衛 No.489 鐘ヶ嶽(かねがたけ・561m) 令和7年(2025年)1月20日(月) |
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→ 地理院地図の該当ページへ 今回参考にしたガイドブックは「日帰りハイキング+立ち寄り温泉・関東周辺(大人の遠足BOOK・JTBパブリッシング)」で、私達夫婦にとって未踏の山で下山後の温泉入浴施設も初めて、という「鐘ヶ岳・かぶと湯温泉」の項を“発見”した。 戦国時代、上杉定正の七沢城へ合図するために鐘が置かれたのが鐘ヶ嶽(かねがたけ・561m)の山名由来だという(*)。その山頂には石仏があり、山頂直下には立派な七沢浅間神社があるという、なかなか由緒ある山であるらしく、今まで登ったことがなかったのが不思議に感ずるほどだった。大山や大山三峰山や日向山などの登山の際に近くを通っているので、もう登った気になっていたこともあるかもしれない。 その鐘ヶ岳への山行日は二十四節気の「大寒」の日(今年は1月20日)で、寒さの厳しい日だった。なので積雪とかアイスバーンなどを気にしたのだけれど、ヤマレコなどの当地の現況情報ではアイゼン等の冬山の基本的な装備は必要ないようだった。近郊の低山で登山道もよく整備されているらしい、ということも貧脚な私達の背中を押した。 * 山頂に設置されている厚木市観光振興課の解説板によりますと、鐘ヶ岳は浅間山(せんげんさん)とも呼ばれているらしいです。また、山名由来については『昔、龍宮から上げた鐘をこの山に収めたという伝説による』という説もあるそうです。 小田急小田原線の本厚木駅北口から少し歩いた「あつぎ大通りバス停」の、7時21分発の七沢行きの路線バス(神奈川中央交通バス)に乗る。と、いきなり驚いた。既に満員なのだ。…当然、座ることはできない。瞬間、しまった!と思った。本厚木駅北口の改札からは同程度の距離の(バスの始発の)「厚木バスセンター」から乗ればよかった、と後悔したのだ。 その路線バスは神奈川リハビリ(神奈川リハビリテーション病院前)で乗客の殆どを降ろして、ガラガラになった。で、ようやく座れて一息ついて、すかさず妻の佐知子が「なぁ~んだ、みんな同じ病院に勤務する人たちだったのね」と私に話しかけた。「…その割にはみんな寡黙で、会話は全くなくて、ほんとうに病院勤務の“同僚”なのかなぁ…。もしそうだとしたら、ずいぶんと悲しくて薄い人間関係の“同僚”なんだなぁ。そんな病院に自分の大切な人を預けられるかなぁ…」と私が答える。「今どきは、そうよ。それに、多分、周りの人に気を遣っているのよ」と佐知子が返したとき、もう広沢寺温泉入口が間近で、乗客は私達だけだった。 広沢寺温泉入口バス停から歩き始めても辺りはしーんとしている。これでようやく、いつもの私達の山旅的になった。…つまり、これからずっと、下山するまではとても静かな時間を過ごすことになる。 地図を見ながら暫く舗道を進むと、広沢寺前の大きな駐車場の隣に愛宕神社があり、その階段を上って参拝してから、コンビニの菓子パンとサーモスの熱いコーヒーで遅めの朝食を摂る。境内を借りたので、御賽銭は…もちろん…いつもより多めに入れた。 腹を満たすと身体が温かくなってくる。もう既に9時を少し過ぎている。気合を入れ直して、七沢川に沿った気分のよい里道を進む。辺りはスギの植林地帯だ。徐々に傾斜がきつくなってくる。 「クマにご注意ください」の看板の立つ車止めゲートを抜けると間もなく、左手に鐘ヶ嶽登山口(急坂コース)があるけれど、例のガイドブックに従って私達はそこは素通りして、そのすぐ先の長い(地図で読むと240mくらいはありそうな)山神隧道へ入る。その懐かしの山神隧道(=山ノ神トンネル)は、相変わらず足元は真っ暗で、流石に心霊スポットなだけあって、やっぱり、少し怖かった。 山神隧道を出て更に舗装道(セラピーロードの二ノ足林道)を進むと、何故か下り坂になってきて、右側の深い谷(谷太郎川の流れる谷)が迫ってくる。なんかおかしいなぁ…、と立ち止まって25000図をじっくりと読むと、どうやら私達の目指す「らくらくコース」の鐘ヶ嶽登山口を通り過ぎてしまったらしい。慌てて引き返すと、トンネル出口から約100mの地点に登山口を“発見”した。そこには道標看板はなくて、目印と思われる赤テープが枯草に巻きつけられているだけで、見過ごしてしまったのもさもありなんと思った。…500m近くは先へ歩いてしまったので、タイムロスは約15分だ。 らくらくルートの鐘ヶ嶽登山口から(けっしてラクではない)急坂を12分ほど登りつめると山ノ神峠(広沢寺温泉分岐・標高約440m)の十字路に出て、そこを左折して尾根道をなだらかに上る。植林されたスギ・ヒノキとコナラやヤブニッケイなどの雑木か交ざる尾根道だ。所々の木々の隙間から近隣の山々や厚木方面だろうか、の里の景色も見えている。 2体の石仏(不動明王の立像?:1体は倒れている)と、三等三角点561.01mの標石(点名:七沢神社)と、七沢城址などの解説板と、テーブルやベンチなどのある…小公園のような…鐘ヶ嶽山頂でひと休み。樹林に囲まれているので展望はないけれど、落ち着ける空間だ。山頂部の樹種をぐるっと見て回って少し驚いた。北側がスギ林で南側はヒノキ林。そしてその林縁に繁茂している照葉樹はヤブニッケイ、だけだったのだ。まぁ、人工林に囲まれているのだから多様性に乏しいのは仕方がないけれど…、ヤブニッケイだらけというロケーションが案外と珍しい。 鐘ヶ嶽の山頂から東へ少し下ると七沢浅間神社で、本殿裏にはご神木の夫婦杉があり、境内には(ここにも)厚木市観光振興課による解説板が立っている。養蚕・子宝・安産に御利益があるそうだ。…私達にはあまり関係なさそうなので、登山安全を祈願して参拝を済ますと、いそいそと石鳥居を潜って参道の石段を下った。 387段あるというけれど、その長い石段を下った地点に二十七丁目の丁目石があり、その先の参道(登山道)には次々と丁目石がでてきて、一丁目の七沢浅間神社入口(鳥居のある登山口)まで、いい目安になる。二十一丁目の展望所からは厚木方面の街並みが一望できた。 * 下山路で観察のできた主な樹種: コナラ、ヤマザクラ、イヌシデ、ミズキ、イロハカエデ、アラカシ、ヤブニッケイ、ヤブツバキ(花が少し)、イヌガヤ、カヤ、そしてスギ、ヒノキ…など。登路とは違って殆ど天然林でした。 プリントした25000図(地理院地図)と首っ引きで里道を下り、かぶと湯温泉「山水楼」に着いたのはお昼過ぎの12時50分頃だった。この下りで私達と同年代のご夫婦とすれ違っただけの、静かな山歩きだった。道をちょっと間違えたりして若干のタイムロスはあったけれど…、今の私達夫婦には適量のハイキングコースだと思った。 かぶと湯温泉「山水楼」: 七沢バス停までは徒歩5分の位置にある静かな一軒宿の温泉。七沢温泉郷に含まれる。ひなびた感じがよくて、私たち好みのロケーションだ。日帰り入浴も可とのことで、受付時間(大体11時~14時位迄)などは事前に電話で確認しておいた。その電話応対も当日の窓口応対も、とても感じがよかった。メタケイ酸およびメタホウ酸含有量により温泉法の規定を満たした温泉であるらしい。泉質はアルカリ性単純温泉でpH値は10.1とのこと。自然湧出の源泉温度23℃、湧出量毎分5リットル。殆ど無色透明無味無臭。そのヌルヌル感は半端ない。加温&掛け流し、循環装置は使用していない。タイル張りの内湯も石タイル張りの外湯も(3~4人程が一緒に浸かれるくらいの)ほどよい広さで、いい湯だった。11時頃からならば(予約して)食事付きの日帰りもできるという。 入浴後に自販機の缶ビールをぐびぐびと飲んで、もう完璧に出来上がった一日だった。 「山水楼」のホームページ 佐知子の歌日記より 標高は五百米強の鐘ヶ嶽ゆっくり登りゆったり下る 零れでる湯音ききつつ下山後の全身浸すかぶと温泉 |