佐知子の歌日記・第十三集
佐知子の歌日記・第十三集
平成27年10月〜12月
よい年になりますようにと来年のカレンダーを買う十月一日
人様にかかわりなきも秋晴れに こっそり悩む体重増加
拍手背に足の不自由な少年は 半周遅れをひたすら走る
磨かれた靴のみ並ぶ山手線 土を忘れて東京めぐる
現実を告げられるのがこわくって 体重計にのらない十日
このなかにわたしのすべてはないにしろマイナンバーにきざまれる過去
満月の白い光を追いかけて赤信号を気づかず渡る
わけもなく気ぜわしくなる十二月 深呼吸せよわが生まれ月
ぴったりと鉛の板の背につきて ぎっくり腰の今日が始まる
ハンドルに はちきれそうなレジ袋 カゴなし自転車を漕ぐ外国人
真向かいて「さっちゃんです」と言うわれを首をかしげて母見つめおり
喪中ゆえ用意はせぬと言いながら 煮しめ塩辛お餅が揃う
よい年になりますようにと来年のカレンダーを買う 十月一日 (10.1)

また一軒店が閉められコンビニへ 乾物屋だった確かあそこは (10.2)

二ヶ月の重い夏経て再開す 早足5千歩空が澄んでる (10.3)

老い人と赤いひもにて繋がれる とら猫の散歩しずかに進む (10.5)

かゆみ止めクリームほしく値引き日にあらずとも行くドラッグストアー (10.6)

人様にかかわりなきも秋晴れに こっそり悩む体重増加 (10.7)

速報は流れず今年もおあずけの 村上春樹のノーベル賞 (10.9)

 
甥の結婚式にて (10.10)
秋晴れの築地市場のにぎわいを 母と眺める介護タクシーより
式場の雅楽にあわせ歌ってる認知症の母 孫を寿ぐ

 
榛名山登山 (10.13)
榛名湖を囲む峰々粧いて 静かにそっと姿を映す
榛名山登る二人をさわやかな空気がそっと包んでくれてる

「いいですよ」その一言をききたくて毎月かよう五年目の眼科 (10.16)

拍手背に足の不自由な少年は 半周遅れをひたすら走る (10.18)

磨かれた靴のみ並ぶ山手線 土を忘れて東京めぐる (10.20)

ひんやりと秋風肌にしみとおる 波立つ胸を鎮めるように (10.25)

 日光への山旅1 : 夕日岳 (10.29)
青空にうかぶ白雲つかもうと ダケカンバの枝八方に伸ぶ
白雲が幕を引くよにたれこめて 男体山の半身隠す

 日光への山旅2 : 社山から黒檜山 (10.30)
秋深む広い笹原歩をあわせ 君と二人の展望の社山
一時間の道迷い経てたどりつく 手ごわい森の黒檜岳なり

雨音に旅の余韻をひたしつつ 晩の献立考えにけり (11.2)

葉の緑紅や黄もあり公園の樹木はおのれの秋を持ちたり (11.6)

現実を告げられるのがこわくって 体重計にのらない十日 (11.6)

たまにはと仏壇まわりを掃除する 写真の義母が笑っているよ (11.8)

鶏肉の骨が左右にあたるたび口内炎がブツブツと言う (11.12)

金曜日のメールの返信わすれてた 詰られており十三日の夜に (11.13)

小走りの通勤の人とすれ違う 緊まる顔して八時十五分 (11.16)

雨上がりに大きく息を吸い込めば体内清浄された身となる (11.17)

青空とほどよい湿気のある日には 自転車こいで母に会いに行く (11.16)

油はね二日続きのやけど負い 親指赤くなみだが二つ (11.18)

逃げたのか放たれたのか公園に 茶色のうさぎ藪より現わる (11.20)

 箱根外輪山周廻歩道 (11.21) 
芦ノ湖は青空うつしおだやかな水面に白い船を浮かべる
昔から不動のスターの座におわす 秀峰富士を眺めつくせり
紫のマツムシソウやリンドウが足元かざる箱根外輪山

このなかにわたしのすべてはないにしろマイナンバーにきざまれる過去 (11.24)

満月の白い光を追いかけて赤信号を気づかず渡る (11.26)

わけもなく気ぜわしくなる十二月 深呼吸せよわが生まれ月 (12.3)

新聞のテレビ番組目で追うは緑内障と認知症の文字 (12.3)

外は雨 渋い緑茶がしみわたる昨日のことは忘れたいのに (12.3)

真向かいて「さっちゃんです」と言うわれを首をかしげて母見つめおり (12.4)

損得の計算速いが数独は三度目にして全マス埋まる (12.6)

器用な手を持つ夫のおり壁かざる木の実のリ−ス今年は五つ (12.7)

白紙
(しらかみ)がなんだか少し黒ずんで 三年使うわが国語辞典 (12.7)

大田区の臭いそのまま身に受けて淀む呑川茶色になった (12.11)

一日中パジャマで過ごすわが夫よ 作家先生気取るでないぞ (12.11)

待たされたほどの味せぬレストラン 開店祝いの花がにぎわう (12.16)

ぴったりと鉛の板の背につきて ぎっくり腰の今日が始まる (12.18)

振りほどくように深紅の葉を落としドウダンツツジ冬に構える (12.21)

飛んでくる黒い糸くずよけきれず 老人病ゆえ眼のなかにしまう (12.21)
 はっきり云って、飛蚊症です…

折り紙の輪飾り孫と作りおり 願いは一つ サンタさん来て (12.22)

ハンドルに はちきれそうなレジ袋 カゴなし自転車を漕ぐ外国人 (12.24)

喪中ゆえ用意はせぬと言いながら 煮しめ塩辛お餅が揃う (12.31)

「佐知子の歌日記」のトップページへ
「佐知子の歌日記・第十二集」へ「佐知子の歌日記・第十四集」へ


ホームへ
ホームへ