佐知子の歌日記・第十六集
佐知子の歌日記・第三十二集
令和2年7月〜9月
コロナゆえ富士山閉ざす令和二年 眺めるばかりの霊峰となる
記入台済めば素早く消毒し扇風機まわる知事選会場
トム・ハック・アンと名付けて金魚飼う 心棒なりし物語より
レジ袋有料となりコンビニへむかう息子のショルダーバッグ
都民生活七十年あこがれは鄙の山川裸足でゆくこと
西へ行くほど緑増す東京の東のわれに来よと言うがに
新しく出来た道路を探せずに空中走る我が家のカーナビ
交易のさかんでありし奥多摩のむかし道行く余暇のわれらが
雲多く明日干そうと樽みれば梅の香ほのかに日差し待ちおり
我の背の倍も伸びたる雑草は風にまかせて空き地に揺らぐ
アルプスのテレビ画面に「来年」と無言で誓う家居の今年
満州におりし兵の父終戦とならねば我はこの世には・・・ない
甲子園交流試合となりたるが球児いきいき球追いかける
ストックを忘れたわれは枝を拾い 夫はタオルを帽子がわりに
「雪とけて村いっぱいの子どもかな」一茶もうれしい雪国の春
爆音かと響く苗名
(なえな)の滝水はドンドンドンと流れてゆけり
われは膝夫は全身ぎくしゃくと油の切れたブリキロボット
友は言う四時間待ちの診察に元気でなければ病院行けずと
お社と防衛施設の頂きの金北山は日本海を見る
お彼岸に墓の掃除をしておれば住職様より栗をいただく
バーコード白く打たれた鉛筆に管理されるも綴るわが歌
朝床に耳を澄まして目を開きゆっくりわが身の螺子巻き始む
ネコジャラシ五本を活けた食卓に朝の光が近づいて来る
息子との食事時間が増えたのは在宅ワークのおかげと気づく
コロナゆえ富士山閉ざす令和二年 眺めるばかりの霊峰となる (7.1)

全滅とはならぬコロナと歩めとや せめて行きたし日本アルプス (7.1)

水仕事終えて 手袋脱ぎ取ればふやけて白い右手あらわる (7.2)

手は右に足は左にけが多し粗忽なわれのバランス感覚 (7.4)

記入台済めば素早く消毒し扇風機まわる知事選会場 (7.5)

漬け石を半分取りて瓶
(かめ)観れば かぐわしき梅並びておりぬ (7.6)

トム・ハック・アンと名付けて金魚飼う 心棒なりし物語より (7.11)

レジ袋有料となりコンビニへむかう息子のショルダーバッグ (7.11)

ピザパイを初めて食うと言う叔父の八十二年をしばし考う (7.14)

過食の由コロナと定め適切な菓子の処遇に家内見回る (7.15)

玄関に盆の送り火焚きおればなつかしいと言い若者が過ぐ (7.16)

長雨のこんな時こそいい歌と意気込みすぎて肩がパンパン (7.18)

都民生活七十年あこがれは鄙の山川裸足でゆくこと (7.21)

観客はマスクで拍手の大相撲 声援なしの秩序はあるが (7.23)

紙面には「コロナ時代の言葉たち」数多載りおり日常語なり (7.25)

 
奥多摩駅周辺をハイキング (7.27〜28)
西へ行くほど緑増す東京の東のわれに来よと言うがに
新しく出来た道路を探せずに空中走る我が家のカーナビ
ふた昔前に登った愛宕山うすい記憶をたどる山道
多摩川はうなり声あげかけ足で岩をかき分け流れていたり
交易のさかんでありし奥多摩のむかし道行く余暇のわれらが

雲多く明日干そうと樽みれば梅の香ほのかに日差し待ちおり (8.1)

慣れたくはないが慣れねばと炎天にマスクを忘れまた引き返す (8.3)

風水害・震災・防災どれみてもハザードマップに最悪の我が家 (8.6)

我の背の倍も伸びたる雑草は風にまかせて空き地に揺らぐ (8.10)

アルプスのテレビ画面に「来年」と無言で誓う家居の今年 (8.10)

もう五年経つかと遺影の母をみて夫はしばらく黙しておりぬ (8.12)

満州におりし兵の父終戦とならねば我はこの世には・・・ない (8.15)

甲子園交流試合となりたるが球児いきいき球追いかける (8.16)

 金峰山登山 (8.17)
ストックを忘れたわれは枝を拾い 夫はタオルを帽子がわりに
大菩薩・南アルプス・八ヶ岳 ひときわ目立つ黒い夏富士
色の濃きアサギマダラがわが腕のまわりを繁く飛びまわりたり
四度目の金峰山そう頂上の五丈石を間近で見るため
夫の靴左右の底が剥がれたり岩や木片何度もからみ

 
3泊4日・北信の山旅・黒姫山斑尾山 (8.23〜26)
朝五時の環八通りは空いていてベンツが目立つ田園調布
信州へ行くのだからと蕎麦をやめ きつねうどんにしたのだけれど
「雪とけて村いっぱいの子どもかな」一茶もうれしい雪国の春
野尻湖畔ドライブすればヨット漕ぐ外人多く商店わずか
爆音かと響く苗名
(なえな)の滝水はドンドンドンと流れてゆけり
民宿のご飯を食めば甘みあり魚や山菜いいね新潟
雲多く麓より見る黒姫は山の半分隠しておりぬ
ようやっとしらたま平にたどり着き紫淡いりんどうを見る
われは膝夫は全身ぎくしゃくと油の切れたブリキロボット
赤倉の温泉宿の湯につかり足を揉むなり明日のために
体力失せ飯綱山はあきらめて多分登れる斑尾山へ
冬ならば林間コースのゲレンデをすすき見ながら汗かき登る

ふる里を深く愛する歌あまた 歌友の霊
(たま)越後に御座す (9.3)

言の葉を聞き返すこと日々多く「はっきり言って」と夫にあたる (9.3)

立ち寄りて短歌のテストがあったというアイス食べつつ十四歳
(じゅうし)の孫は (9.8)

いつもいつも遠慮がちなる友なりきもう永遠に会えなくなりぬ (9.9)

派手でなく地味でもなくてつゆ草の青色よしと見るたび思う (9.14)

この世にいるってなんだろう呼吸
(いき)をして食べて眠って空を見上げて (9.14)

友は言う四時間待ちの診察に元気でなければ病院行けずと (9.15)

 
佐渡島の山旅 (9.17〜19)
草原をハイジのようには走らねど君と見渡すドンデン高原
赤黒い幹なる杉の天然林 雨にぬれつつ見学したり
昼食はやっと見つけた萬屋で菓子パンを買う コンビニがなく
もともとは頑丈な船だったという小木集落の杉板の家
お社と防衛施設の頂きの金北山は日本海を見る
学名はニッポンがつく朱鷺だけどさまざまな国のトキがいる園
何枚も梅鉢草を撮る君とすすきの揺らぎ見ているわれと

お彼岸に墓の掃除をしておれば住職様より栗をいただく (9.21)

立つ・歩く・ゆっくりすすむ先輩は十年のちのわがシルエット (9.22)

バーコード白く打たれた鉛筆に管理されるも綴るわが歌 (9.26)

朝床に耳を澄まして目を開きゆっくりわが身の螺子巻き始む (9.26)

大鍋にカレーを作る三人の家族だけれど食べきる二日 (9.26)

ネコジャラシ五本を活けた食卓に朝の光が近づいて来る (9.28)

息子との食事時間が増えたのは在宅ワークのおかげと気づく (9.29)

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