佐知子の歌日記・第三十六集
令和3年7月〜9月

小庭には咲く花のなく南天や蔦葉を切りて仏壇に供う 蒸し暑き三浦半島の山に来て 人の気配にマスクをつける つま先を岩の隙間にぐいと入れ烏帽子岳の頂上に立つ ためらわず優先席へと直行す登山帰りの山手線に エアコンが壊れてしまった八月のここは東京 アルプスじゃない 草むらよりぬるりと出でて半身は青くきらめく蜥蜴の尻尾 痺れてる足引きずりて下山する｢おんせんおんせん｣と呟きながら ゆるく立つゆるく歩める老い人の一員となり整形外科に ｢つ｣が書けたとドリルを見せる五歳児のマスクは無しのはじける笑顔 消しゴムかぁなつかしいねと言う息子パソコンが字を書く世ではある なだらかに裾を広げる姫神山 見れば見るほどほんに姫様

町内のオレオレ詐欺にかかりたる人の話しを漏らさずに聞く （7.1） 小庭には咲く花のなく南天や蔦葉を切りて仏壇に供う （7.4） オリンピック無観客にて開かれる もともとテレビ観戦だけれど （7.9） 　三浦富士から武山 （7.10） 蒸し暑き三浦半島の山に来て 人の気配にマスクをつける 何でだろうどうしたのかと立ち枯れし三浦の富士の木々を見る君 津久井浜にとりどりの色はためかせウインドサーフｧー海に乗ってる 瓶の蓋あければ漂うかぐわしい三年ものの梅干しである （7.14） 蒸し暑さ吹き消すようにクラブ振る老人会のグランドゴルフ （7.15） 　北アルプス横断 （7.25〜31） 寝台車なき現在は新幹線にてすうっと 富山へ着いた （7.25） 折立（おりたて）より息もたえだえ登り着く太郎平で食う太郎ラーメン （7.26） 澄む流れ二つが出合う薬師沢 登山者のほか釣人もおり （7.26） 山小屋の夕食なのに昆布じめのブリがあったよ さすが富山だ （7.26） 雲が切れ黒部五郎や薬師岳が見えてきたよと夫が喜ぶ （7.27） あこがれの雲の平への道険し お花畑に苦しさも飛ぶ （7.27） 花盛りの小梅�尅�（コバイケイソウ）斜面うめ 北アルプスの白き穂の波 （7.28） 小屋裏の展望台で槍･劔の雄々しきさまを見入るひととき （7.28） 雷雨きて野口五郎に逃げ場なくただただ黙し夫と歩けり （7.29） ザレ地には駒草のピンク一面に今を盛りと揺らいでいたり （7.29） 息切れて頭が痛くなってきた 二千五百を過ぎたころから （7.29） 駒草を何枚も撮る君である けなげに生きる小さきものらを （7.30） つま先を岩の隙間にぐいと入れ烏帽子岳の頂上に立つ （7.30） ためらわず優先席へと直行す登山帰りの山手線に （7.31） エアコンが壊れてしまった八月のここは東京 アルプスじゃない （8.5） 背に劣る日本女子のバスケット動き軽やか銀メダルなり （8.9） わが脳の決定事項に無い習い早寝早起きになってしまって･･･ （8.11） 小雨降れど夫と歩いて池上へ 森の緑がぐんぐん迫る （8.16） 　白馬岳登山�B （8.23〜27） 草むらよりぬるりと出でて半身は青くきらめく蜥蜴の尻尾 落石を恐れながらも大雪渓 アイゼン利かせ登ってゆきたり 花畑は秋の装いトリカブトの濃い紫が山肌を染む 人間を怖がりもせず雷鳥は餌をさがして親子で歩く 膝痛と靴擦れの身は何の罰（ばち） 雨風強き山道をゆく 霧が晴れ緑の山に赤屋根の白馬大池山荘現る 小屋前はチングルマの大群落 稚児車となり風と遊べり 痺れてる足を引きずり下山する「おんせんおんせん」と呟きながら 糸魚川の銘酒セットを購（あがな）いて飲み比べする笑顔の夫よ ゆるく立つゆるく歩める老い人の一員となり整形外科に （8.30） われを呼ぶ福島弁の友の声永遠に聞けない でも忘れない （9.8） 「つ」が書けたとドリルを見せる五歳児のマスクは無しのはじける笑顔 （9.16） 色あせたつゆ草二本 国道の騒音聞いて生きてきたんだ （9.17） 消しゴムかぁなつかしいねと言う息子パソコンが字を書く世ではある （9.22） 唐辛子生姜大蒜食せどもピリリとしないわが歌であり （9.26） 　北奥羽・7日間の山旅 （9.27〜10.2） 目の前にせまり来るよな岩手山ホテルの窓ゆはみ出しそうに なだらかに裾を広げる姫神山 見れば見るほどほんに姫様 牧草地とおり抜ければ一合目くもり日に行く七時雨山 予報は雨 登山をやめて見学す硫黄ただようおゝ恐山 海に向き大き岩岩そそり立つ仏ヶ浦に手を合わせたり 夕焼けに染まる山並み海峡を越えて見えるは北海道だ 漁り火がちらちら灯す下北の美味しいイカをいただいており ケータイの充電器ないと気づいたは宿を出てから五十キロの後 山頂の紅葉を頭と胸に置き膝痛と下る太平山

「佐知子の歌日記」のトップページへ



ホームへ