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No.226 富士山3776m登山
平成19年(2007年)8月7日〜8日 曇ったり・・・晴れたり・・・

大菩薩峠から富士山を望む(H16年10月に撮影)

富士山 略図人間模様のオムニバスを見た

第1日=新宿-《高速バス2時間25分》-河口湖五合目〜(吉田口コース)〜本七合目・鳥居荘 第2日=鳥居荘〜富士山頂・お鉢めぐり〜(須走コース)〜須走口五合目-《バス55分》-御殿場(入浴)…
 【歩行時間: 第1日=3時間 第2日=7時間】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


 誰もが一生に一度は登りたいと思う山が富士山で、昔から 「一度も登らぬバカ・二度登るバカ」 とも云われているそうだ。私は四十数年前の中学生の頃に一度富士山に登っているので、できることならば“二度登るバカ”にはなりたくないと思ってきた。単調な登りと、そのとてつもない標高差。満員(人だらけ)の登山道や山小屋。そして高山病の恐怖。と、どれをとっても腰のひける材料ばかりの山が私の富士山だ。
 しかし、もう観念した。私達夫婦は “二人で日本百名山に登ろうね” と約束して、それを忠実に実行して12年が経ち、目標達成まであと数座となった。その残りの数座の中に富士山が含まれているのだ。

 比較的に空いているという梅雨時のウィークデーを、天気予報を日々聞きながら満を持していたのだけれど、とうとう“運”に恵まれず、結局、私達が白羽の矢を立てたXデーは梅雨明け後の8月7日(火)〜8日(水)ということになった。そして今回の特筆すべきことは、私達夫婦の富士登山に、私達が主催するハイキング同好会山歩会のメンバーの有志の方々が同行してくれることになった、ということだ。「二人だけの百名山」にはそれほどこだわってこなかったけれど、思い起こすと、これまでの百名山登山については…月山至仏山を例外にして…全て二人だけのメンバーだった。まぁ、富士登山はお祭りのようなものだから、それで全然構わないし、楽しい仲間といっしょに単調な登山道を歩くことができるので、佐知子も私も大喜びだった。

第1日目
六合目の辺りです
ゆっくり休憩

夕飯はやっぱり(定番の)カレーライスでした
本七合目の鳥居荘
第2日目
御来光
山道から御来光を仰ぐ

富士山頂上奥宮の一つです
久須志神社に到着

二等三角点や展望台などがあります
剣ヶ峰の測候所跡

“砂走り”の下りは楽しい
豪快に”砂走り”

マメ科ゲンゲ属:富士山に多い
ムラサキモメンヅル

前方に古御嶽神社
樹林帯へ下山
 第1日目(8月7日・晴れ): 新宿から午前7時45分発の高速バスに乗り、富士スバルラインの終点(河口湖口五合目・標高2300m)に着いたのは10時頃だった。いきなりの人・人・人の波に所在なくオロオロする私だったが、メンバーの中には20年ほど前に同コースから富士登山をしたことがあるというH子さんがいて、その方の記憶(スゴい記憶力だ!)に従って河口湖口登山道へ入る。高所順応に留意して、其処彼処で大休止した。
 吉田口登山道と合流する六合目辺りまではなだらかな広い道で、カラマツやダケカンバなどの山腹の木々たちを観察しながら快調に(つまりゆっくりと)歩く。やがて視界が広がり、山小屋群などが頭上に見えてくる。いよいよ単調で延々と続く急勾配が始まった。何気に…、馬子に引きずられた馬が歩いている。
 辺りはガレてきて、何時の間にか森林限界も超えていて、オンタデなどのタデ類が点々と繁茂する荒涼とした風景になっている。足元には、数は少ないが、ハクサンシャクナゲ、タカネバラ、クルマユリ、ホタルブクロ、タカネニガナ、イワツメクサ、(ヒメ?)シャジン、…などが咲いている。所々のダケカンバの背が低くなり、ミヤマハンノキやウラジロナナカマドなどの、これも数は少ないが、高山型の植生になる。富士山にはハイマツが生えていない、というのが不思議といえば不思議だ。
 七合目のトモエ館の手前に、偶然の一致だと思うが、トモエシオガマが咲いていたのには笑ってしまった。振り返ると、南アルプスの甲斐駒ヶ岳や御坂・道志などの山々。見下ろすと、山中湖や河口湖が薄ぼんやりと見えている。時折、イワヒバリがすぐ近くまでやってきて、可愛らしい仕草を見せてくれる。
 午後3時頃、予約を入れておいた本七合目の鳥居荘(標高2900m)に到着した。思惑通り、それほど混んでいないので先ずは胸をなでおろす。…夕飯はやっぱり(定番の)カレーライスだった。

 第2日目(8月8日・高曇り): ゆっくり歩こう! 深呼吸をしよう! 水をたくさん飲んでたくさんオシッコをしよう! アルコールは控え目に! と、しつこいくらいに私が云い続けたのはもちろん高山病予防のためで、それは2年前のネパール・ヒマラヤ・トレッキングのときの経験が役に立っていた。そのお蔭かどうか、特に体調不良を訴えるメンバーもなく、午前3時40分頃に、懐中電灯の明かりを頼りに、8人全員が元気に山小屋(鳥居荘)から歩き出す。暫く進むと、左手の雲の隙間から太陽が上り始めた。
 登山道が混雑する時間帯(夜中に登って山頂でご来光)を避ける意味でも、睡眠を充分にとるためにも、真夜中の行動はなるべく避けたいと思ってのコース計画だったのだが、結果大オーライだ。このコース上ならば殆ど何処からでもご来光を拝めるのだ。
 上るほどに、辺りは火山性のガレやザレばっかりで、流石のタデ類やイネ科などの高山植物も少なくなって、緑と云えば殆どコケ類だけの、人間という生物はイヤになるくらいたくさんいるけれど、寂寞とした無機物の世界に近づいていく。胸突き八丁を過ぎ、久須志神社のある河口湖口(吉田口)の頂上に辿りついたのは午前8時30分頃。ここも都会の街角のような店と人の波だった。
 この山頂部でも充分の休憩をとったのだが、女性メンバーのMさんの疲れが激しくて体力的にも限界にきているようだった。Mさんご本人も非常に残念そうだったが、標高で4〜5百メートルほど下った八合目の小屋での再会を約束して、残りの7名で“お鉢めぐり”をすることにした。富士山頂の火口(大内院)を一周する、コースタイムにして約1時間ほどの“日本最高所のトレッキング”だ。Mさんには申し訳ないが、これは実際、火山の迫力をまざまざと見せつける、この世のものとは思えないほどの素晴らしい“トレッキング”だった。
 富士山の山頂部には、北海道の後方羊蹄山や日光の男体山と同じように、二つの三角点があるというのも面白い。何れも二等三角点で、白山岳は標高3774.88m、最高地点の剣ヶ峯は標高3775.63mだ。この剣ヶ峰にある建物が1世紀以上の歴史をもつ測候所で、3年程前に閉鎖(平成16年10月1日で常駐観測を終了)されている。そのシンボルでもあった白いドームは既に取り払われていて、錆び付いた壁面などには哀愁が漂っていた。
 お鉢めぐりを楽しんでから、下山開始は11時頃で、まず八合目の小屋でMさんと再会した。そのとき、心配していた身体の調子をお聞きしたら 「悪くない!」 とのことでホッとした。そして、「山頂部を辞すとき、お鉢の景色はご覧になりましたか?」 と気になっていたことを尋ねてみたら、「近くのピークに登って見てきました。とても良い景色でした。おかげさまです…」 と答えが返ってきた。Mさんもそうだったが、私もそのときウルウルしてしまった。
 須走口コース下山道(砂走り)の豪快な“駆け下り”は、40数年前の思い出を彷彿とさせる楽しいものだった。しかし…あれよあれよという間に下って、砂払五合目の茶屋(吉野屋)へ着いてしまった。…辺りの砂礫地に、マメ科のムラサキモメンヅルが小群落してきれいに咲いている。日本では分布が限られており、高山植物が少ない富士山では異色の存在であるらしい。パイオニア中のパイオニアであるこのマメ科植物の、根粒菌が窒素を固定して土壌を創っていることを思うと、ちょっと感動だ。
 そこ(砂払五合目)からわずか30〜40分の距離だったが、登山口(須走口五合目)へ下るまでの樹林帯の道が、久しぶりの緑、といった感じでとても良かった。ダケカンバ、ナナカマド、ヤハズハンノキなどの落葉広葉樹やシラビソ、コメツガ、トウヒ、カラマツなどの針葉樹が混交して生い茂る、趣のある林だった。林床には初秋を思わせるカニコウモリが咲いている。やっぱり樹林が無いと、森林インストラクターの私としては“出番”が少なくなってしまう…。なんとなれば、超若い成層火山の富士山は、その山腹で森林の一次遷移が進行中の、きわめて希少で興味深い存在でもあるのだ。今度いつか、一合目から植生の変化を楽しみながら、じっくりと富士登山をしてみたい、と本気でそう思う。
 古御嶽神社を過ぎ、賑やかな、しかし河口湖口(吉田口)よりはずっと静かな、茶店群を抜け、標高約2000mの須走口五合目バス停に着いたのは午後2時40分頃だった。

 様々な国籍の様々な老若男女が等しく不夜城の山頂を目指す…、それが、私達が超至近距離から垣間見た夏の富士山だった。剣ヶ峰の一歩手前で力尽きた女性メンバーのMさんのこと。上りの、山頂まであとわずかという九合目付近で“もうこれ以上は歩きたくない!”と泣いてお母さんを困らせていた4〜5歳の男の子のこと。山頂まで辿りつけたのかどうかは不明だが、小さなショルダーバッグひとつで、まるで渋谷の街を歩くようにして登っていたタウンシューズの若いカップル。すれ違う人毎に愛嬌をふりまいていた青い目の外人さん。富士宮口コースの山頂部ではしゃいでいた元気で明るい幼稚園児たち。…等々、様々な人たちが様々な思いを富士山に寄せている現場を目の当たりにして、その容姿以外に初めて富士山の偉大さを実感した山旅でもあった。そんな人間模様のオムニバスをみる、つまり臨場感のあるマンウオッチングが、この富士登山の最大の魅力かもしれない。


御殿場高原温泉「気楽坊」 御殿場高原温泉「気楽坊」: 私たちが富士登山の帰路に立ち寄ったのが、御殿場高原「時之栖」内にあるクアハウス的な日帰り入浴施設「気楽坊」だった。三島や御殿場の駅前などから無料シャトルバスが運行されている。いつオープンしたのかは公式HP等には明記されておらず不明だが、まだ新しい建物は清潔でデラックスで大きくて、特に何も云うことはない。しかし、入館料は高かった。入浴後にビールを飲んだり食事をしたりしたいので、どうしても1時間以上は必要になるが、その1時間以上の入館料は1,500円(土日は2,000円)だった。私は使用しなかったが、タオル類や浴着なども付いている。山旅の入浴施設としては少し高級過ぎたかもしれない。アルカリ性単純泉、加熱、循環。各種の設備は豊富。湯上りに展望レストランで飲んだ高原ビールが旨かった。
 * この後、気楽坊の料金はより細分化されて、微妙に変化しているようです。[後日追記]



日本最高所のトレッキング(お鉢めぐり)
大内院を取り囲む8つの峰の一つです
剣ヶ峰方面から白山岳
大内院を取り囲む8つの峰の一つ
お鉢(火口:大内院)の底との標高差は約240m
白山岳方面から剣ヶ峰
お鉢(火口=大内院)の底との標高差は約240m
左回り(時計と反対)に歩きました
剣ヶ峰へ向かう お鉢巡り:約2.4km


富士山の写真集 当サイトの各頁から集めたものです。 覗いてみてください。

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