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No.362 南伊豆歩道 (中木〜入間〜吉田〜妻良)
平成30年(2018年)1月31日 晴れ

南伊豆歩道の略図
海岸線の絶景を楽しみながらアップダウン
青年は荒野をめざす…而して…オジサンとオバサンは海辺をめざすのだ!

…伊豆急下田駅-《バス65分》-中木口(泊)〜入間〜千畳敷〜富戸ノ浜〜吉田〜妻良(泊)-《バス47分》-伊豆急下田駅… 【歩行時間:6時間15分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(中木)へ


 日本ジオパークに認定されている大レジャーランドの伊豆半島には、海岸線に沿って整備されたハイキング道(遊歩道)が、こま切れ状態でぐるっと整備されています。海から突き出たような岩山の多い伊豆半島だから、それらの遊歩道は眺めが良くて変化があって、なかなかどうして侮れないコースが多いようです。

* ガイドブックなどによりますと、伊豆半島の主だったシーサイドコースには東伊豆の城ヶ崎ピクニカルコース・城ヶ崎自然研究路、西伊豆の西伊豆歩道(大瀬崎コース、井田コース、戸田・舟山コース、小土肥コース、通り崎コース、今山コース、燈明ヶ崎コース)、そして南伊豆の須崎遊歩道、タライ岬遊歩道、今回の南伊豆歩道(中木-入間・入間-吉田・吉田-妻良)、子浦日和山遊歩道、波勝崎歩道、三浦歩道、…などがあるようです。
* 同年4月18日の朝刊(読売新聞)によりますと、伊豆半島は、同月17日付のユネスコ執行委員会で世界ジオパークに認定されたそうです。[後日追記]

 今回は、それらのシーサイドコースの中から重量感のある南伊豆歩道を選び、久しぶりにいつのもメンバー(つまり夫婦)で、3日間をかけて(民宿に前泊・後泊して)、中木(なかぎ)から妻良(めら)までを目いっぱい歩いてみることにしました。もちろん、小さな漁村の民宿の新鮮な海の幸などもたっぷりと味わうつもりですが…。(^_^)v
 * 父の(初めて利用した)ショートスティのおかげです。ケアマネジャー(介護支援専門員)さんや関係の方々に大感謝です。<m(__)m>

 しかし…、全長約12Kmの南伊豆歩道は、地形図をよく読むとアップダウンがきつくて、累積標高差は(多分)1000m以上はあるようです。“トレッキング”というよりは“登山”といった感じで、常日頃の鍛錬不足の私達ですから、油断は禁物です。

仕切り線

南伊豆歩道@(中木〜入間)
ここが南伊豆歩道の入口(起点)です。
宝永軒寺院の石段を登る
 午前7時40分: 中木入口に位置する民宿(リゾートイン・TAKEMARU)に、1泊2食付きの料金(@7,500円+消費税)を支払ってから歩き始める。盛り沢山な朝食を残さず平らげたので、お腹がちょっときつい。
 まずは中木里バス停の少し手前、宝永軒寺院の石段を登る。ここが南伊豆歩道の入口(起終点)になっているのだ。案内板や道標が整備されているので迷うことはない。お堂に賽銭箱がなかったのでお賽銭はカットして、とりあえず山旅の無事を祈って手を合わせる。 「それでは、ぼちぼち…」 と寺院裏の墓地の中をなだらかに上っていくと、その突き当たりから山道が始まった。
どんぐりがたくさん落ちていました。
ウバメガシの純林を進む
 8時頃: ウバメガシの生い茂る鬱蒼とした小道を進む。ベンチや石燈籠などのある辺りからは、左手の木々の隙間から奥石廊崎方面が見え隠れしている。尾根道の森の主役はウバメガシだが、下層木の主なものはトベラ、アオキ、タイミンタチバナなどで、ヤブニッケイやカクレミノもけっこう目立っている。…ウバメガシは南伊豆町の「町の木」に指定されているそうだ。その(ウバメガシの)どんぐりが足元にたくさん落ちている。
 * ウバメガシ(姥目樫): ブナ科コナラ属の常緑広葉樹。海辺の潮風が吹きつける岩っぽい急斜面は、樹木の生育には不向きだから競争相手が少ない。そんな劣悪な環境に耐えるのがウバメガシの戦略だ。堅い幹は備長炭の材料として有名。(材の比重約1.0 …とても重い)
石仏が安置されています
日和山山頂(161m?)の念仏堂
 8時15分: 石室(念仏堂)前で立ち止まる。傍らの案内板には “日和山(ひよりやま)山頂に間口2m20cm、奥行き2m60cmの岩をくり抜いて作った石室で…、昔、航海の安全を祈って土地の老人達が念仏を唱えたところと伝えられています。” と書いてある。日和山って、たしか妻良の北側の子浦日和山遊歩道にも同名の山117mがあるけれど…。(IZU NETの該当項によると)漁をするためにこの山から天気模様をみたり潮の流れや風の向きを調べることから日和山と名づけられたそうだ。
 “一本道の尾根道なので迷うことはない” けれど、アップダウンがけっこうきつい。
カヤト越しに入間方面(三ツ石岬・千畳敷)を望む
千畳敷が見えてきた!
 8時45分頃: ようやく大きく開けた(カヤの生い茂る)道へ出た。林に入るとヤブニッケイに交じりシロダモやヒサカキ、そしてヤブツバキやヤマザクラなども増えてくる。足元のツワブキのテカッた葉が木漏れ日に反射してとてもきれい。入間に近づくにしたがって千畳敷がよく見えてくる。
 タイミンタチバナの束生している赤っぽい花芽が(…もうすぐ咲くんだ…やっぱり早いなぁ…南伊豆だなぁ…)まるで枝にくっついているように見えている。蔓性のフウトウカズラの房状の赤くなった果実が、マムシグサのそれを一回り小さくしたように見えて、少し不気味かも。…ベンチなどでたっぷりと休憩を取りながら、楽しく足を進める。
 広い道へ出ると間もなく、閑散とした入間の集落へ入る。
キダチアロエの赤い花が印象的です!
入間の里のアロエ畑

船揚場の後ろが歩道入口です
入間漁港の歩道入口
 9時50分頃: 磯の香りとアロエ畑が印象的な入間の集落を歩く。真冬の平日の南伊豆の小漁港だ。めちゃくちゃ閑散としている。
 しかしアロエ畑をしみじみと道端から見下ろしていたとき、にゅっと農作業姿のオジサンAの顔があらわれて、「何処から来た?何処へ行く?」 と話しかけてきた。おどおどしながら 「中木から歩いてきました。これから吉田、そして妻良へ行く予定です」 と答えたら、「そりゃ〜大変だ。風が強いから気をつけて」 と優しく注意された。なんか、ゴジラがにゃッと笑ったような感じで可笑しかった。オジサンAさん、ゴメンナサイ。
 入間からの歩道の起点は海際(船揚場)で、その少し手前の公衆トイレで佐知子が用を足しているとき、どこから現れたのか(散歩中と思われる)オジサンBが私に話しかけてきた。長いトイレの彼女が出てくる間、私はそのオジサンBから「千畳敷」の蘊蓄について得々と説明された。なんでも、ここの千畳敷はテレビで2回も取り上げられている、とのことで、地層がどうのこうのと、けっこう難しい説明もしてくれた。しかし、帰宅してから思い出しても、その内容については何にも憶えていない。オジサンBさん、ゴメンナサイ。
 とにかく、この入間漁港のオジサンたちはみんなとても親切で話好きなのだ。

南伊豆歩道A(入間〜吉田)
磯釣りの名所でもあるらしい
千畳敷方面を見下ろす
 10時5分頃: 入間の船揚場の奥から案内板に従って、まず篠竹(アズマネザサ?)の生い茂る急坂を登る。すると間もなく林道へ出て、暫くは林道歩きになる。葉を落としたハゼノキに鳥たちが食べ残した果実が未だたくさんついている。 「ハゼの実は和蝋の原料だよ。実の皮の部分を使うんだ」 と説明する私の声が弾む。
 この林道の終点を左へ下ると千畳敷だけれど、ここへ戻ってこなくてはならない。下って上り返すとすごく疲れそうなので、私達は阿吽の呼吸で千畳敷見物をカット。まあ、ここからでもそれなりに見えているし…。
吉田方面の展望
千畳敷から富戸へ
 11時20分頃: 再び展望が大きく開ける。吉田の浜にかけての海岸線の眺めがすばらしい。カヤトの斜面を下っていくと富戸ノ浜が見えてきて、けっこうな迫力だ。しかし風が強い。帽子が飛ばされそう…いやいや、帽子だけならまだいい。身体も飛ばされそうだ。重心を低くして少しずつ進む。

 青年は荒野をめざす…而して…オジサンとオバサンは海辺をめざすのだ!
漂着物が散乱している
富戸ノ浜を通過
 11時50分頃: ゴロタ石の富戸ノ浜を通過。この富戸ノ浜は椰子の実ならぬペットボトルや流木などの漂着物が散乱する一種異様な雰囲気だ。ふと「海岸漂着物処理推進法(平成21年7月に公布・施行)」のことが頭をよぎった。この小さな浜の近くには(勿論)誰も住んでいないので、もしかして明確な“海岸管理者”がいないのかもしれない。(なわけないかぁ) …まぁ、この状態はこれである意味“自然”なんだろうと思うことにする。
 富戸ノ浜の奥から再び山道へ入りアップダウンを重ねる。
 …素晴らしいロケーションがずっと続いている…。
素晴らしいロケーションが続く!
吉田の浜へ下る
  12時20分: 西風がまともに当たるカヤトの道を、吉田の浜へ向かう。冬(今の季節)には特に強い風が吹くらしいが、この一角に高木が育っていない(カヤトの原になっている)理由のひとつだと推察した。展望は抜群なんだけれど、風が強くて目をよく開けていられない。花に嵐、といった感じだ。振り返ると、今歩いてきた三ッ石方面もよく見えている。
 ヤブツバキの咲く小道を進むと吉田の浜へ出る。
柏槇:ヒノキ科の常緑高木。別名イブキ(伊吹)
吉田・白鳥神社のビャクシン
 13時10分: 吉田の浜近くの白鳥神社に参拝。樹齢800年・県の天然記念物というビャクシン(ヒノキ科の常緑高木・別名イブキ)を見物する。何本もの曲がりくねった太い枝がのたうち回るその異形は芸術的と云えるかもしれない。南伊豆町のサイトによると、(白鳥神社は)日本武尊と弟橘姫命が祀られてあり、航海安全と安産の神として知られている、とのことで、安産祈願をし、無事安産を終えたら小穴の開いた「ひしゃく」と「麻ひも」を持ってお礼参りをする、といったいっぷう変わった習わしがあるそうだ。何時か若い人たちに教えてあげよう。
 神社前から舗装された道を進むと吉田の集落へ入る。

南伊豆歩道B(吉田〜妻良)
ここでも一休み
吉田〜妻良コースの入口
 13時20分: 吉田の集落を進むと左側に案内板が出てきて、そこが吉田〜妻良コースの入口だった。暫くは照葉樹に囲まれた沢筋(涸れ沢の右岸)の上りで、それから(またもや)アップダウンが続く。ヤブツバキの落花を踏みしめながら気合を入れるが、もうへとへとだ。樹木観察と称して立ち止まる回数が増える。
 ここもヤブニッケイやアオキが多いようだ。シロダモ、ヒサカキ、ネズミモチ、ヤツデ、マサキ、オニシバリ、マルバグミなどの(海沿い山野常連の)常緑樹に交じり、葉を落としたヤマザクラ、オオバヤシャブシ、ハゼノキなどが目を惹く。蔓性のキヅタやフウトウカズラがここでも幅を利かせている。
臨海コースを進む
展望が開けた!
 15時10分頃: 海岸線の展望が開け、波勝崎方面がよく見えてきた。海の景色も飽きないなぁ〜。
 写真の左上に浮いている小さな岩の島が「京の字島」らしい。つ〜ことは、妻良の港はもう近いということだ。\(^o^)/
* この写真の東側(右側の斜面の奥)には三等三角点峰の二十六夜山310mというちょっと気になる山があるのですが、薄っすらとした分岐はあるものの道がはっきりしないこともあり、疲れたし…、夫婦会議をするまでもなく今回はこれもカット。…展望の全くないヤブ山とのことですが…、この地にも二十六夜信仰があったということが興味を惹きます。
コラム欄へ 二十六夜山と月待ち信仰について: 参照してみてください。
左の樹木はマテバシイ
“林道コース”へ出る

窓からの眺めもGood!
民宿・静海荘に到着
 15時20分: 北谷川(やがわ)浜分岐を過ぎ、最後のひと登りで、きつかったアップダウンもようやく終了して“林道コース”へ出る。変化のあるトレイルに大満足。もう妻良までは残り1.2Kmだ。

 15時50分: 妻良の民宿・静海荘に到着。気さくな女将が何かと私達の面倒を見てくれる。夜中でも朝でもいつでも入れるよ、という赤御影石の立派な浴槽のある風呂は実によかった。料理は言わずもがな。新鮮な海の幸のオンパレードだ。特にキロ級メジナの姿煮は絶品だった。この季節のメジナは本当に美味いんだから〜。

 翌日(2月1日)は、静海荘の朝風呂にまったりと浸かってから美味しいアジの干物でご飯を3杯食べて、女将に丁重にお礼を云って清算(ビールも飲んだのになんと二人で約14,000円)を済ませたら、お土産にと女将手作りの柚子ジャムをいただいた。重ね重ねの感謝感激だ。
 バスの時間まで妻良港の周辺を散歩した。伊豆急下田駅でもたっぷりと時間があったので、近くの「道の駅」などにも立ち寄ったり、「踊り子号」で電車の旅も楽しんだりした。…本当に久しぶりの、夫婦水入らずの山旅(今回は海旅?)だった。

  佐知子の歌日記より
 まっ青な海をときおり眺めつつ200メートルの山を四つ越えたり
 西風と波音まざるうなり声 ひと影のない冬 伊豆の浜
 累積は1000メートルになるだろう小さき山でも四座登れば
 焼き魚煮付けに刺身みなうまい なんてったって伊豆の民宿
 われは膝 夫はふしぶし痛くなり仲良くロボット歩行となりぬ

  南伊豆歩道の写真集 大きな写真でご覧ください。

仕切り線

前方に見えている小さな峰々のどれかが二十六夜山だと思います・・・
富戸ノ浜へ下る ・ 強い西風に帽子が飛ばされそう…

南伊豆歩道の森の中で目立っていた赤いモノ
大明橘:サクラソウ科(旧ヤブコウジ科)の常緑小高木
タイミンタチバナの赤っぽい花芽
藪椿:ツバキ科の常緑高木
ヤブツバキの花
風藤葛:コショウ科の常緑蔓性木本
フウトウカズラの実


* 伊豆半島の海岸線を歩いた私達の山旅日記
(東海岸)
 城ヶ崎海岸:1995年12月
(西海岸)
 波勝崎遊歩道:1994年12月 燈明ヶ崎遊歩道:2002年5月 南伊豆歩道:2018年1月(本頁)

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