佐知子の歌日記・第十六集
佐知子の歌日記・第二十八集
令和元年7月〜9月
地境の伸びたもみじの枝をきる鋏の音がひびく夕暮れ
病院まで一人で来たる「しあわせ」を老女しみじみと我に語りぬ
俯いて駒ヶ岳に咲く紫の白山沙参
(ハクサンシャジン)は秋田美人なり
プール二個分ほどの源泉折々にボコッボコッと息つぎをする
キスゲ咲く乳頭山への登山道 小雨に濡るる君と我のみ
木道でつまづき君は手をくじく七十歳
(ななそじ)の坂はゆっくり登ろ
知らないでいたらよかった 山の宿でうさぎの肉を食べてしまえり
ハプニングがいくつかあれど無事下山 北岳に向きほほえみ送る
朝五時のこむら返りに声もなく茜
(あかね)に染まるカーテン見つむ
耳遠く眼鏡なしでは歩けない七十歳の坂は膝痛
(しっつう)
世にあるは難しからん公園の電話ボックス やっぱり消えた
緑道のおちこちに鳴く蝉の声 歩みつつ聴く逝く夏の歌
ひと気なき公園の中いちめんに狗尾草
(エノコログサ)が風と戯る
「こおろぎか?」夫には聞こえる虫の声 わが耳さえぎる玻璃戸一枚
雪のなか佐々成政が越えたとう針ノ木峠を秋風と歩く
街灯あり家からもれる光ありそれでも煌めく上弦の月
竜胆は濃い紫に凛と立ち尾瀬の小道の木道にそう
くもり日にさねさし相模の湖を石老山よりかすかに眺む
わが歌集贈りし友らの声のなか「いいね!」もあるが「意外!」も多し (7.1)

地境の伸びたもみじの枝をきる鋏の音がひびく夕暮れ (7.5)

予報にて登山中止の半日後 次々消える雨傘マーク (7.8)

パソコンを素早く閉じて雨のなか夫は静かに迎え火をたく (7.13)

ドアあけて思わず足は躊躇する雨の日なのに混み合う眼科 (7.16)

病院まで一人で来たる「しあわせ」を老女しみじみと我に語りぬ (7.16)

 
花と展望・秋田の山旅5日間 (7.22〜26)
夢のごと令和元年文月の秋田駒ヶ岳に登頂す
俯いて駒ヶ岳に咲く紫の白山沙参
(ハクサンシャジン)は秋田美人なり
ザレ地には強き風にもくじけずに女王駒草
(コマクサ)いちめんに咲く
迷信と心のなかでつぶやいて四十二号室にそっと入りぬ
入浴剤五箱分ではたりないか国見温泉は濃い緑色
あおあおと流れは速く抱返り渓谷の夏静かに涼し
山々に囲まれ深い田沢湖の淡いブルーのさざ波が聞こゆ
プール二個分ほどの源泉折々にボコッボコッと息つぎをする
(黒湯温泉)
湯の花が浮かぶ湯舟は木のかおり乳頭温泉黒湯につかる
キスゲ咲く乳頭山への登山道 小雨に濡るる君と我のみ
雨あがりふりさけ見ればたおやかな乳頭山はほんに乳の型
館内の使用説明ていねいで覚えきれずにわたし流にする
二十頭の黒牛ねころび草をはみ広い野原にかたまりており
濃淡あり大小あれど背をのばす森吉山の白山沙参
(ハクサンシャジン)
木道でつまづき君は手をくじく七十歳
(ななそじ)の坂はゆっくり登ろ
レンタカーのナビに従い走れどもガタガタ道に泥跳ね上がる
知らないでいたらよかった山の宿でうさぎの肉を食べてしまえり
きりたんぽカツカレーなる定食をはじめて食す飛行機見つつ

作り方問われることがたまにある「あなたの梅干しちょっと旨い」と (8.2)

 
北岳登山 (8.5〜7)
息を止めじっと見入る北岳のタカネビランジ白く咲きたり
膝痛に耐えつつ登るリーダーの顔は半分ゆがんで見えた
大粒の雨と雷の九十分やむを祈りてひたすら歩く
浸す手がすぐに冷たくなってゆく大樺沢の速い流れに
ハプニングがいくつかあれど無事下山 北岳に向きほほえみ送る

薄皮をそおっと剥がし指先でポンと捨てる腕の日焼けの (8.13)

もう一日休みがあれば登れるか雲の平はまた雲のなか (8.16)

朝五時のこむら返りに声もなく茜
(あかね)に染まるカーテン見つむ (8.17)

耳遠く眼鏡なしでは歩けない七十歳の坂は膝痛
(しっつう) (8.22)

世にあるは難しからん公園の電話ボックス やっぱり消えた (8.26)

緑道のおちこちに鳴く蝉の声 歩みつつ聴く逝く夏の歌 (8.26)

ひと気なき公園の中いちめんに狗尾草
(エノコログサ)が風と戯る (8.26)

「こおろぎか?」夫には聞こえる虫の声わが耳さえぎる玻璃戸一枚 (8.28)

Tシャツの値段とサイズが折り合わず手ぶらで帰る夏物セール (8.29)

 
針ノ木岳と蓮華岳登山 (9.2〜6)
山葵の茎二本がついた安曇野のもりそばを食う山葵田見つつ
雪のなか佐々成政が越えたとう針ノ木峠を秋風と歩く
地図の上にコンパスをあて山の名を確かめ君は笑顔になりぬ
白雲に浮かぶごとくに黒々と後立山連峰の峰
雨のなか針ノ木山頂より下り五分ののちに剱
(つるぎ)あらわる
雷の予報に縦走あきらめて小屋に戻れば陽がさしてくる
槍ヶ岳の穂先が見えたり隠れたり のそりのそりと白雲がゆく
同室の若い女は初めての登山は富士で次ぎがここ
(針ノ木岳)と言う
雲海に浮かぶ槍・穂と剱岳 立山・富士を蓮華より見る
冷房の設備は無用の葛温泉 湯上がりに頼む二つの団扇

街灯あり家からもれる光ありそれでも煌めく上弦の月 (9.9)

 
尾瀬・笠ヶ岳登山 (9.16〜18)
竜胆は濃い紫に凛と立ち尾瀬の小道の木道にそう

幾たびもぬかるみに入る登山靴 赤から茶へと変身したり
これはもう親子と言うしかないだろう笠ヶ岳の横 鎮座の小笠
九時間の山行中に出会ったはわずかに二人の笠ヶ岳なり
朝からの雨に予定の登山やめ帰ると決めた我ら自由人

練習用ドラムを叩く孫うつすスマホの動画に笑顔がちらり (9.19)

父母の墓石みがき花添える いわし雲めく彼岸の入りに (9.20)

 
石老山ハイキング (9.24)
くもり日にさねさし相模の湖を石老山よりかすかに眺む

肩を寄せ三人
(みたり)なりびてにぎやかな娘と孫の夕べの家路 (9.27)

祝賀会飲んで歌ってよく話す老人による老人のための (9.29)

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