佐知子の歌日記・第十六集
佐知子の歌日記・第二十七集
平成31年4月〜令和元年6月
残されたあとひと月の平成に何をしたいかすべきかわれは
新元号発表前の三十分テレビの前に吉き名と願う
万葉集より引かれたる新元号令和の代には一日一首を
さくら散り寒の戻りの外出にしまい忘れた手袋をする
菓子袋カサカサ開けるを聞きつけて五匹の猫が寄るベンチ脇
元気よい小学生の遠足につられて歩く小仏城山
鹿せんべい追いかけまわるシカの目は潤みておりぬ奈良の公園
新聞やテレビの声は幾たびも「平成最後の」を報じておりぬ
プランターを我が家と思い咲く花の いただきし青飛んできし赤
耳なれぬ会話がはずむ近鉄でわれもしばらく異邦人となる
平日の満員電車の足元に登山リュックを隠すごと置く
雲厚く展望台に立ち尽くす「心眼」または「心願」の富士
笹の露に濡れたるズボン重たくて ますます足が遅くなるなり
この夏は月に二回の山登り 体力・天気どうにかしたい
出来たてのわが歌集繰る喜びとはずかしさ混ぜ胸はドキドキ
羽田から千歳までのチケットが五千円なんてほんとうかしら
樽前の外輪山に噴き上がる硫黄の風を全身に浴ぶ
支笏湖の透きとおる水に手を浸し身のうちまでも浄化されゆく
残されたあとひと月の平成に何をしたいかすべきかわれは (4.1)

新元号発表前の三十分テレビの前に吉き名を願う (4.1)

万葉集より引かれたる新元号令和の代には一日一首を (4.1)

 丸岳ハイキング(箱根外輪山) (4.4)
春の日の思い立っての箱根路を二人で歩くリュックは軽く
幾たびもドーンドーンの大音響 演習場より聞こえてきたり

さくら散り寒の戻りの外出にしまい忘れた手袋をする (4.10)

黒黒と光る両手は自転車のチェーンにからむビニールの所為だ (4.11)

花びらは風にまかせて校庭に大波小波の渦巻きを描く (4.14)

 鋸山ハイキング (4.16)
菓子袋カサカサ開けるを聞きつけて五匹の猫が寄るベンチ脇
平日の鋸山
(のこぎりやま)に人けなく順番待たずに「のぞき」に立てり

 小仏城山から高尾山 (4.23)
元気よい小学生の遠足につられて歩く小仏城山
二輪草を愛でつつ歩く君と吾をためらわず笑う山々の峯

 
高野山観光ツアー (4.26〜27)
寺でらを巡るツアーの客なれば日に十遍も手を合わせたり
鹿せんべい追いかけまわるシカの目は潤みておりぬ奈良の公園

わが短歌の大会賞の賞状を居間に飾りてくれる君なり (4.28)

新聞やテレビの声は幾たびも「平成最後の」を報じておりぬ (4.30)

新しき代となる日からと買い置きしノートにつづるわが青い歌 (5.1)

カレンダーに登山予定のマル書けば升目が踊る今年の夏は (5.2)

プランターを我が家と思い咲く花の いただきし青飛んできし赤 (5.5)

静けさのなかに鋏の音ひびき地境いの若もみじの枝
(え)をきる (5.6)

 
升形山〜黒富士〜曲岳 (5.9)
富士を背に静かに広がる春霞 甲州盆地は湖のごとし
鈴の音に驚き素早く山下る太目のカモシカころがるように
甲州の芽吹きの山や新緑を時間
(とき)を忘れて君と味わう

娘よりの桜模様のマグカップに夫が淹れたる珈琲をのむ (5.12)

 
御在所岳藤原岳登山 (5.17〜18)
滑りやすい石ゴロゴロの道なれど御在所岳にひばりの声す
道に迷いたどり着きたる山頂にリフトや自販機食堂もあり
風強く藤原岳の山頂に五分と立てず腰かがめ下る
東側を深くけずられいたいたし藤原岳はうす雲に座す
耳なれぬ会話がはずむ近鉄でわれもしばらく異邦人となる

ぜんそくの息子の咳が聞こえくる苦しかろうよ四十年も (5.22)

欧州への旅に誘えば飛行機が怖いと言う十六の孫 (5.24)

真夏日のような日差しに力ぬけ自転車こぐを苦行と言おう (5.25)

 
高尾山ハイキング (5.28)
平日の満員電車の足元に登山リュックを隠すごと置く
雲厚く展望台に立ち尽くす「心眼」または「心願」の富士

退院後ようやく一キロ太ったと喜ぶ友の声はソプラノ (5.29)

我よりも少し後ろを歩く夫 迷路のような地下街を嫌う (5.30)

一ケースの瓶ビールを土間に置き酒屋は腰に手をあて苦笑す (6.2)

真剣なまなこが光る中学生 運動会は五輪
(オリンピック)のごとし (6.8)

 
日光白根山から錫ヶ岳 (6.13〜14)
ロープウエイの山頂駅にもくもくとシラネアオイを植える人々
二十キロのリュックを背負う夫の足 よろけて転び腕をすりむく
雪かぶる至仏や燧に見とれてる君と二人の白根山頂
人影の見えなくなった山頂の牡鹿一頭我らを見つむ
かろうじてたどり着きたる避難小屋 重い板戸をこじ開け入る
夕食は餅入り即席ラーメンだキャベツや卵ハムもたっぷり
朝四時に錫ヶ岳へと出発すきのうの疲れ残る足あげ
朝焼けの日光白根を見上げつつ行く手の山をはるかにのぞむ
笹の露に濡れたるズボン重たくて ますます足が遅くなるなり
鈍足の我らに遠い錫ヶ岳体力尽きて引き返すなり
小屋周り高嶺桜は八分咲き五色沼へと雪道をゆく
切り株につまずき膝が少し腫れズボンが五センチ破れていたり
ロープウェイの最終時刻に間に合ってゴンドラに入る脱力気味に

仏壇のうす紫のギボウシは植えし義母むきおじぎをしてる (6.21)

この夏は月に二回の山登り 体力・天気どうにかしたい (6.21)

出来たてのわが歌集繰る喜びとはずかしさ混ぜ胸はドキドキ (6.21)

明日から山へ行くのにこの腰の重さは一体何キロだろう (6.24)

 
北海道の山旅(樽前山と藻岩山) (6.25〜28)
羽田から千歳までのチケットが五千円なんてほんとうかしら
建物の近くまでしか教えない あとは己で探せとカーナビ
安宿の従業員は感じ良く一人で三組の客に応ずる
八分咲きの樽前草がそこかしこ山肌淡く紫にする
鉄鍋を伏せた形の溶岩のドーム黒々四方を睨む
樽前の外輪山に噴き上がる硫黄の風を全身に浴ぶ
樹木の葉 藻岩山のは大きいとインストラクターの君が言う
支笏湖の透きとおる水に手を浸し身のうちまでも浄化されゆく
道がなく渡し舟にて迎えたとパネルが語る丸駒温泉
帰るなり着替えもせずに梅を漬け午前一時の風呂に浸りぬ

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