No.365 帝釈山から田代山 平成30年(2018年)6月14日 |
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→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ 梅雨の晴れ間を狙っていつものメンバー(夫婦)で、2泊3日の奥会津方面へのささやかな山旅を計画した。電車や乗合バスなどの公共交通は効率が悪そうなので、久しぶりにマイカーを利用した。その初日(6月14日)に歩いたのが福島・栃木の県境に位置する帝釈山脈(帝釈山地)の西側、盟主の帝釈山2060mと山頂部に高層湿原(田代)を有する田代山1971mだった。 東北自動車道の西那須野塩原ICからは約2時間の運転で、なつかしの檜枝岐集落へ入る。道標に従って桧枝岐の中央を左折して、ダートの林道川俣檜枝岐線(=舟岐林道)をクネクネと上ること40分弱、帝釈山登山口のある馬坂(まさか)峠1780mに着いたのは午前10時45分。ときあたかも当地(檜枝岐村)の「帝釈山・台倉高山オサバグサ祭り」の真っ最中(今年は6月2日から17日まで)で、駐車場は20台近くの車でほぼ満車状態だった。晴天とはいえ平日なのにすごい人気だねぇ、と妻の佐知子と言葉を交わして、空いている空間にマイカーを停める。とすぐ、当地の担当者と思しき男性が近づいてきて、車窓越しにオサバグサ祭りの記念バッチを手渡された。恐縮して、内心ニンマリだ。…西側の樹林の隙間から、未だ残雪をたくさんつけた平ヶ岳が見えている。 トイレへ行ったりストレッチしたりして準備して、コメツガ・オオシラビソの自然林を北へ向かって気分よく登り始める。すると間もなく、道の両側にお目当てのオサバグサが咲いている。(あとから思うと)その群落がこれからずっと、帝釈山を過ぎて田代山湿原の少し手前まで延々と続くのだ。オサバグサをこんなにたくさん見たのは20年前の北上山地の薬師岳山麓(→No.65早池峰山)以来のことで、その総量は今回の帝釈山のほうが多いかもしれない。俯いて白く小さく咲くこの可憐な花を、私達夫婦は大好きだ。 馬坂峠から帝釈山までの登山道で、オサバグサの他に目立って咲いていたのはミツバオウレンで、ゴゼンタチバナ、ツマトリソウ、イワカガミなども少し咲いていた。木の花ではタニウツギとオオカメノキが目についた。林床はネマガリダケだ。…20mほどの左前方の林内で草を食んでいた大きなカモシカが、私達の姿に気がついて「シャーッ」と喉を鳴らして逃げていく。…と、なにやかやで、帝釈山2060mの山頂までの標高差280m(コースタイム50分)は、道がよく整備されていることもあり、あっという間だった。 二等三角点のある帝釈山の山頂はほぼ360度の大展望で、数名のハイカーで賑わっていた。流石に日本二百名山だ。東面では高原山が目立っていて、南面の日光連山は秀逸だ。西面の燧ヶ岳や平ヶ岳もくっきりで、北面の会津駒ヶ岳・大戸沢岳・三岩岳が近く、その右奥には…なんと飯豊連峰も見えている。こんなにカラッとした“梅雨の晴れ間”なんて、私達は非常にラッキーだったのだ。 帝釈山の山頂部周辺には矮性化したオオシラビソやネズコ(クロベ)や二葉生のマツ(アカマツだ!)や五葉生のマツ(キタゴヨウ?ヒメコマツ?チョウセンゴヨウ?それともハイマツ?)、それとアカミノイヌツゲ、ベニサラサドウダン(花)、ハクサンシャクナゲ、アズマシャクナゲ(花)、オオバスノキ、ネマガリダケ…などが生えていて、菓子パンを齧りながらあっちへ行ったりこっちへ来たり、山岳展望と植物観察を交互に楽しむ。 大休止となった帝釈山の山頂を辞して(帝釈山脈の)主稜線を東へ向かう。北面は福島県、南面は栃木県だ。アズマシャクナゲの花を愛でながら、まず露岩を二つのアルミ梯子で下る。すると再び鬱蒼としたコメツガ・オオシラビソ林へ入り、オサバグサの大群落が続く。ため息をつきながら、なだらかに正味1時間強をアップダウンする。田代山避難小屋(弘法大師堂)の裏手から空が完全に抜けて、田代山の高層湿原が広がる。 反時計回りにぐるっと田代山湿原を一周(ゆっくり歩いて正味30分)する。ワタスゲの綿毛が一面に広がり、所々にチングルマ、タテヤマリンドウ、ヒメシャクナゲ、…などがきれいに咲いている。弘法池(池塘)の縁などには食虫植物のモウセンゴケが、その小さな葉の(文字通り毛氈のような)腺毛で、小さな虫を誘惑しようと目論んでいる。盛夏にはニッコウキスゲやコバイケイソウなども咲き乱れるという。明るくて快適で、尾瀬ヶ原と比べるとふたまわりも狭いけれど、充分に満足のいく素晴らしい“天上の楽園”だと思う。「小さな尾瀬」とも呼ばれているらしい。 充たされた気分で来た道を下山して、馬坂峠登山口へ戻りついたのは午後4時を少し過ぎた頃だった。20台近くの車で賑やかだった駐車場だが、今は私達の車の他には1台だけで、閑散としていた。仕合わせの余韻に浸りながら、ゆっくりとマイカーを操作して、今日の宿・尾瀬檜枝岐温泉「ますや旅館」へ向かう。 明日は帝釈山脈の北側に聳える湯ノ倉山と大嵐山に登る予定だが、なんか、お天気が気がかりだ…。 * 今回のコース選択について: 田代山と帝釈山を繋げて歩く場合、従来は湯ノ花温泉側(猿倉登山口1430m)からの往復登山が一般的だったようですが、檜枝岐側(馬坂峠登山口1780m)からの登山道が整備されたこともあり、コースタイムも短いので(比較的楽なので)、私達は馬坂峠コースを選びました。もちろん、「オサバグサ祭り」の最中だったことも選択理由の一つではありました。 当初、私達は田代山から木賊温泉側(川衣登山口1110m)へ下るルートを計画しましたが、長すぎるコースタイムが気になって今回はボツとしました。…下山地に秘湯を配したこの木賊温泉コースはとても魅力的なのですが、やはり自身の体力に自信がもてませんでした。老いと常日頃の鍛錬不足が原因なのは分かっていますが…。トホホ〜 * 田代山の山頂(ピーク)について: 地形図をよく見ると三等三角点1926.62mは山頂湿原の北東に離れていて、木道から外れているので一般のハイカーには確認ができないようです。それで多分、湿原中央部(木賊温泉への分岐点)に山頂標識を設置したのだと思います。田代山の最高標高点1971mは田代山避難小屋(弘法大師堂)のある辺りに位置しているようですが…、まぁ…この山のテーブルマウンテンのような台形状の山容からしても、ピークを云々するのはあまり意味のないことなのかもしれません…。 * 帝釈山脈について: 私達はH22年の秋に、その東側に位置する荒海山に登っています。私の独断と偏見ですが…、歩きやすさでは今回の帝釈山・田代山のほうが断然勝っていますが、山の深さにおいてはやはり荒海山に軍配が上がります。つまり、ハイキングによいのは帝釈山・田代山で、登山によいのは荒海山、ということです。 なお、帝釈山脈は中央分水嶺でもあります。つまり、北西面の阿賀川や只見川などへの流れは阿賀野川となって日本海へ、南東面の鬼怒川などへ流れ落ちた水は利根川となって太平洋へ注いでいます。 * 故・田中澄江さんは: その著作「花の百名山」の該当項(田代山‐キンコウカ)で、田代山の山頂湿原を歩いたとき 「自然がこんなにも美しいのなら、もうちょっと、もうちょっと、生きてみよう」 …と、そんなつぶやきを心にくりかえしたそうです。う〜ん…ガッテン! * 南会津町の公式HPによりますと、2015年9月の豪雨災害により荒海山は入山禁止となっているようですのでご注意ください。北側の戸坪沢からの非公式ルートがあるらしいですが…、つまり自己責任です。[後日追記] 尾瀬檜枝岐温泉「ますや旅館」: 気の利く女将が“アットホームな接客”で、なにかと親切にしてくれた。総檜の内湯や石造りの外湯なども落ち着ける広さで、(多分半循環の)アルカリ単純泉のなめらかな湯が肌に気持ちいい。その露天風呂から外の景色を眺めると、なんとお隣が鎮守神社の境内(檜枝岐歌舞伎の舞台)の裏手になっている。いや〜、これは面白いロケーションだと思った。 * 女湯からは檜枝岐歌舞伎の舞台は見えなかったそうです。 食事は名物の裁ちそばやユキザサやコゴミなどの情緒豊かな郷土料理がたっぷりで、骨まで美味しい岩魚の塩焼きや各種のてんぷらなど、焼き立て揚げたてを用意してくれるのが嬉しい。予約しておいた岩魚の骨酒(別料金@1,800円)などはもう絶品。おかげさまで、身体も心もふにゃふにゃになるほど癒えた感じがした。1泊2食付きで一人10,950円だった。 檜枝岐温泉「ますや旅館」のホームページ * 桧枝岐温泉についてはNo.93会津駒ヶ岳及びNo.112燧ヶ岳の項も参照してみてください。 佐知子の歌日記より 春蝉の哀しい声を聞きながら檜枝岐へと静かに進む 梅雨に咲く帝釈山のオサバ草 白い小花はうつむきながら ワタスゲの白がふわふわリンドウの青すがやかな田代湿原 |