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No.112 燧ヶ岳(ひうちがたけ・2356m)
平成12年(2000年)10月7日〜8日 晴れ

燧ケ岳 略図
三平下から望む燧ヶ岳
尾瀬沼と燧ヶ岳


草紅葉と碧い尾瀬沼、尾瀬は今が旬

第1日=JR上越線沼田駅-《バス1時間50分》-大清水〜三平峠〜尾瀬沼ヒュッテ 第2日=尾瀬沼ヒュッテ〜沼尻〜(ナデッ窪道)〜俎ー2346m〜紫安ー2356m〜俎ー〜熊沢田代〜広沢田代〜御池-《バス25分》-桧枝岐(泊)-《バス1時間15分》-野岩鉄道会津高原駅
 【歩行時間: 第1日=2時間30分 第2日=5時間30分】
 → 国土地理院・地図閲覧サービスの該当ページ


  第1日目(10/7): JR沼田駅から大清水行きの関越交通バスに乗車したのは午前10時頃。 ほぼ満席で、私達夫婦は別れ離れに着座した。 途中の戸倉で鳩待峠行きのマイクロバスに乗り換えるハイカーがぞろぞろと降りていった。 車内を振り返ると、後部座席にポツンと妻の佐知子が座っている。 終点の大清水に降り立ったのは、結局私達の二人だけだった。
  どうやら尾瀬に入るルートの出発点は上州側では鳩待峠、会津側では沼山峠、が主流のようだ。 そして、ここ大清水コースもそうだが、ほとんどのハイカーは自家用車を利用している。 そのマイカー登山者たちに紛れて林道を歩き出したのは、丁度お昼の12時。 天気は上々、気分は爽快だ。
  今年は紅葉の時期が少し遅れているらしい。 トウヒやオオシラビソなどの深緑の針葉樹に交じり、染まり始めた落葉広葉樹を観賞しながら、ダルな林道を歩くこと約1時間。 一ノ瀬休憩所の少し手前の広場のベンチでお弁当の大休止。
  再び歩き始めると、やがて道は狭まり山道へと変わる。 所々木道や石積みの階段になっていて歩きやすい。 登山道沿いの藪の中から「チャッ、チャッ」とウグイスの地鳴きが聞こえてくる。 長袖のシャツ着用で寒さは感じないが、山はそろそろ冬の準備に入っているようだ。 三平峠を越えた辺りからようやく視界が開けて、尾瀬沼が見え始めた。
  草紅葉と碧い尾瀬沼、そしてその彼方に鎮座して浮かぶ燧ヶ岳。 三平下から眺めたその燧ヶ岳の颯爽とした姿に思わずうっとり。 暫らくの間、時間が止まってしまった。
  今日の宿「尾瀬沼ヒュッテ」へ着いたのは午後3時30分だった。

尾瀬沼ヒュッテ* 桧枝岐村営国民宿舎「尾瀬沼ヒュッテ」: 尾瀬沼東岸のほとりに建つ尾瀬の老舗「長蔵小屋」の奥、標高約1670mに位置する。 近くに環境庁の「尾瀬沼ビジターセンター」があり、尾瀬の知識を仕入れることができる。 夕食後、夜7時から、ボランティアの指導員(名前は忘れたが福島訛りの感じの良いおじさんだった)の解説で、約40分間のスライドショーを見せてもらった。
  尾瀬の御多分にもれず、このヒュッテの宿泊も完全予約制。 三連休の初日というのに、六畳の部屋には私達ともう一組の中年カップルの四人だけで、ゆっくりとくつろげた。 食事もマアマアだった。 通常は風呂にも入れるとのことだったが、今日のような週末の繁忙日は、尾瀬のすべての山小屋(なんと、赤田代にある温泉小屋も含めて)の風呂は入浴禁止になるとのことだった。 屎尿処理の先進性といい、いやはや、尾瀬は、噂通りの徹底した環境保全体制を布いているようだ。
 * その後、週末の入浴禁止は全面的に解除されたとのことです。 [後日追記]

  第2日目(10/8): 未明、長蔵小屋裏手の沼畔へ、ザックに詰めてきた衣類を全部着込んで、朝もやに煙る眼前の燧ヶ岳を眺めに行ってみた。 既に大勢のカメラマンたちが立派な撮影道具をセットして立ち尽くしていた。 私のバカチョンでその中に割り込むのは流石に気が引けて、カメラマンたちの一群からは少し離れて、遠慮しながらシャッターを切った。
カメラマンがいっぱい(バックは燧岳)
早朝の尾瀬沼

稜線に出る
俎ーへ向かう

俎ー山頂より柴安ーを望む:左後方は尾瀬ヶ原
俎ーの山頂にて

人、人、人の、柴安ー山頂
柴安ーの山頂
  天気はやや下り坂だが、今日一日は何とかなるはずだ。 朝食後、ヒュッテを出たのは午前7時丁度。 尾瀬沼周遊道を時計と反対回りに進む。 沼畔の湿原の道を少しでも長く歩きたい、と、それだけの理由で、今回は長英新道への道を右に見送り、浅湖湿原などの小さな湿原をいくつか横切り、沼尻へ向かう。 残念ながら花の季節はとうに過ぎていて、辛うじて咲いていたエゾリンドウの濃紫の花が僅かに目につく程度だった。
  沼尻から周遊道と別れ右折して、燧ヶ岳へまっすぐ北に延びる木道を行く。 この木道が切れ、樹林帯に入る頃から徐々に本格的な登りになってくる。 傾斜もきつくなってきて、ゴロ岩の急登が続く。 所々のナナカマドが沢山の赤い実をつけている。
  この道はナデッ窪道と呼ばれ、深田久弥さんの「日本百名山・燧岳」の項によると“雪崩窪(なでくぼ)のつまったものか”とある。 ひと息ついて振り返ると、尾瀬沼とその奥の日光連山が薄もやに包まれて、まるで墨絵のように美しく見えていた。
  急登が一段落し、稜線へ出て長英新道と合流する。 岩とハイマツとシャクナゲの最後の急坂を登りきると、2等三角点のある俎ー(まないたぐら)の頂上に辿り着いた。 午前10時15分、 人、人、人・・・の山頂だった。
  展望を楽しみながらの小休止の後、西の方向の眼前に聳える燧ヶ岳の最高峰・柴安ー(しばやすぐら)を目差す。 両峰間の距離は片道約20分。 柴安ーの山頂も人だらけ。 砂糖に群がる蟻のような人波のため、岩の積み重なった頂上部の地肌が傍からは見えないほどだった。
  でも、流石に東北六県に北海道を加えた山の最高峰(*)、こちらの眺望も素晴らしい。 ヒュッテで作ってもらった握飯弁当を食べながらの山座同定。 北から時計回りに、まず、たおやかな会津駒ヶ岳が近い。 東の間近には今登ってきた俎ー。 南南東方面の男体山や奥白根山を始めとする日光連山とその眼下の尾瀬沼が印象深い。 南に遠く赤城山。 そのさらに右奥に、驚いたことに、富士山も薄っすらと見えている。 西南西の方向には尾瀬ヶ原と尾瀬のもう一つの主役・至仏山がやさしい貫禄を見せている。 その左後方の武尊山の辺りは雲の中だったが、北西の方向には平ヶ岳や魚沼駒ヶ岳などの越後の山々も見えている。 久々の360度の大展望に大満足。
  ただ、いくらなんでも人が多すぎる。 私達も人ゴミの片割れだけれど、こう人が多いと、不思議と自然より人間の方に目がいき、何時しかマンウオッチングになってしまっている…。 数人で来たと思われる若者パーティーの一人がカメラをどこかに置き忘れたといって、小声で騒いでいた。 表情の引きつったその若者に対して、「大声をだして他のみなさんに尋ねてみなさい!」 と大声で怒鳴っていた中年の御婦人のたくましさに脱帽した。 というのは、その御婦人の指示した通り、若者が 「どなたかカメラの落し物を知りませんか」 と山頂にいたみんなに大声で聞いて回ったところ、あちこちからそのカメラに関する情報が伝わってきて、結局、そのカメラは俎ーへ向かった男性の登山者が落し主を捜しながら持ち去っていった、ということが即判明したからだ。 若者たちのパーティーは山頂のみんなに大声で感謝しながら、慌てて俎ーへ向かっていった。 そのカメラが無事に若者の手に戻ったか否かは、私達の関知するところではない…。
  なにやかやで、柴安ーの山頂を辞したのは午前11時30分。 いったん俎ーへ引き返し、尾瀬沼の景色に別れを告げ、北へ下山開始する。 途端に人影は少なくなった。 ぬかるんだ下山道は滑りやすく、注意が必要だ。
  下山途中、熊沢田代と広沢田代という湿原の木道を歩いたが、特に熊沢田代から振り返って眺めた紅葉の燧ヶ岳は絶品だった。 木道に座り込んで、ため息をつきながらその景色に見とれていたら、すぐ傍で同じように木道に座り込んでいた老夫婦がいる。 話を聞いてみたら、この老夫婦は山へは登らず、ここ(熊沢田代)からの燧ヶ岳の景色を眺めたら引き返す、とのことで、毎年何回かここまで来ているそうだ。 さもありなん、と思えるほどの、うっとりとするような美しい風景だった。
  広い駐車場や桧枝岐村営の休憩所のある御池(みいけ)へ着いたのは午後3時10分頃だった。 沼山峠(尾瀬沼への最短コース)と七入(なないり・大駐車場がある)を往復する臨時バスはひっきりなしに出ているが、桧枝岐を経由する会津高原行きのバスは2時間に一本程度の定期便だけ、とのことで、御池のバス停で待つこと約1時間強。 16時20分発に乗車、桧枝岐の温泉民宿へ向かった。 何時しか雲が低く垂れこみ始めていた。

* 燧ヶ岳は以北最高峰: 国内において北側にその山より高い山がない、という山を最近では「以北最高峰」と呼んでいます。 本文でも少し触れましたが、この燧ヶ岳(紫安ー)も日光白根山や火打山などと同じ「以北最高峰」です。
  「以北(遠)最高峰」の山列一覧については 日光白根山の頁 のコラム欄を参照してみてください。


桧枝岐温泉「民宿かねや」: 宿の御主人が私達をあたたかく出迎えてくれた。 近くに露天風呂のある村営の共同浴場「駒の湯」があり、宿の泊り客の私達は入浴料は無料とのことで、宿へ着くや否や、早速出かけてみた。 混雑していたが、いい風呂だった。 例によってレモン石鹸だ。 宿の風呂は檜の浴槽で、やや狭いが、二人がゆっくりと湯に浸かれる充分な広さをもっていた。 湯量豊富。 単純泉。
  宿の料理は、一泊二食付き一人6,500円とは思えないほど、立派なものだった。 名物の「裁ちそば」をはじめ、山菜・きのこ料理や「つめっこ」と呼ばれるそばすいとん、イワナの塩焼きなど、心のこもった地元の素朴な料理はどれもこれも美味しくて、私達を旅情の世界へ誘い込んだ。
 * 桧枝岐温泉については No.93「会津駒ヶ岳」 でも紹介しています。



早朝の燧ヶ岳:長蔵小屋の裏手より撮影
早朝の尾瀬沼と燧ヶ岳
俎ーへの登りより:後方のピークは奥白根山
尾瀬沼(登路より)
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