No.476 物語山1019m 令和6年(2024年)5月10日(金) |
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無料バスを利用して黄金伝説の山へ → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ ●プロローグ 山行の参考として(シャレじゃありません!)、私達夫婦が25年位前から最も利用しているのは実業之日本社から出版された「ブルーガイドハイカー4・花と展望の23山域300コース・東京近郊の山・1998年11月1日初版」という分厚いガイドブックです。300コースも丁寧に紹介されている割には一冊の定価が3,000円で、コスパはかなり高いと思います。…掲載されている山の、もうその殆どを登ってしまって、残っている山は数座ほどになってしまいましたが、その数座のひとつが西上州の物語山(ものがたりやま・1019m)です。なんとも興味を惹かれる山名で、ずぅ~っと気になっていました。 そのガイドブックの解説文には「(物語山は)戦国時代の黄金伝説を秘めた山で、山名はその物語に由来している」と書かれてあります。それを読み返すと、もう、いてもたってもいられなくなりました。少し調べてみると、西上州では珍しく公共交通の便がいい山ということもわかり、それも私達の背中を押しました。 という訳で、新緑たけなわのGW明けの晴れた日に、いつものメンバー(夫婦)で、いそいそと出掛けました。 ●物語山登山 高崎駅で7時10分発の上信電鉄に乗り換えて、終点の下仁田駅に着いたのが8時15分。それから下仁田駅前8時23分発の「しもにた町営バス・市野萱線・スクールバス5号」に乗車する。バスとは云っても小型で、大型のワゴン車といった風だ。このバスで驚いたのは200円の均一運賃ということで、もっと驚いたのは小中高生や高齢者(70歳以上)などは無料、ということだ。私達は(もちろん)無料で、なんか、ちょっと後ろめたい気持ちも感じた。「スクールバス」となっているけれど、この日(金曜日)は行きも帰りも児童や生徒さんは乗ってこなかった…。 私達夫婦だけが乗客のその町営バスは国道254号線を西へ快調に走る。左手の車窓から見え隠れする小沢岳や鹿岳などの個性的な山容が懐かしい。 サンスポーツランド前のバス停で降りたのは定時の8時47分頃だった。ストックを準備して歩き出すと、前方(南の方向)に長方形の岩峰(メンベ岩=メンバ岩=メンベ板岩)を従えた物語山が見えている。(→冒頭の写真) 「あのメンベ岩のどこかに大判小判がざっくざく、なのかなぁ~」 「メンベって、そばを延ばす台のことらしいわよ」 と私達の脈絡のない会話が盛り上がる。清々しいそよ風が肌に気持ちのよい、登山日和だ。 市ノ萱川(いちのかやがわ・利根川の支流)に架かる深山橋を渡り、今は閑散としている(駐車場やテニスコートや多目的グラウンドなどのある)サンスポーツランドを右に見送って、支沢(丹沢)に沿った林道を進む。と物語山の山頂部はもう見えない。間もなくこの林道は荒れてきて、つまりいい感じの(整備された)登山道もどきになる。道の両脇には岩壁なども出てきたりして、ムードはたっぷりだ。 植生の基本はスギの人工林だけれど、それに交じった天然林が素晴らしい。…ケヤキ、トチノキ、カツラ、フサザクラ、サワグルミ、サワシバなどの沢筋でおなじみの樹木や、コナラ、クリ、イヌシデ、アカシデ、クマシデ、オニグルミ、ヤマザクラ、イタヤカエデ、ウリハダカエデ(葉柄が長くて赤いのでホソカエデかも?)、ミズキ、ハリギリ、キブシなどの雑木林の常連さん…の新緑が眩しいほどに美しい。木漏れ日の当たる道路脇にはクワガタソウの白や薄ピンクの花が群生して咲いている。沢の瀬音も清々しい。 正味1時間強の歩程で林道終点(登山口)に着く。それから沢を跨ぐと本格的な登山道で、急坂をジグザグと、休み休み登る。所々の足元は板状(スレート状)の石で、浮石が多いので注意が必要だ。 やがて分岐のある稜線へ出る。右へ進めば物語山の山頂(本峰)だけれど、取り敢えずやっぱり左折して、ネジキ(ツツジ科の落葉小高木)の目立つ山稜を少し登って西峰(にしみね・967m)を目指す。 西峰の狭い山頂は噂に違わず北面の眺望が良好で、(反時計回りに)妙義山~浅間隠山~鼻曲山~浅間山~黒斑山~八風山~物見山…などの上信の懐かしい山々が同定できる。西南西の方向(左端)に聳えているはずの軍艦山(荒船山)は…残念なことに、樹木に遮られて見えない。 西峰で展望を満喫してから踵を返し、リョウブ(リョウブ科の落葉小高木)やアカヤシオの落花が目立ってきた山稜を登り返して、三等三角点(点名:帝釈山・1019.26m)のある物語山山頂を確認する。この本峰も、少し(約100m)進んだ南峰1018mも樹林に囲まれていて、展望は殆ど無い。約25年前のガイドブックには『物語山山頂(本峰)は雑木林が伐採されて展望はよくなった』と書かれてあったけれど、その後、山頂付近の伐採をやめたのだろう。…そう、木々が育って視界を塞いだのだ。それはそれで…今の物語山の山頂部は…自然でいいと思う。 南峰の小さくて地味な山頂標識の近くに座り込んで、おにぎりとゆで卵のお弁当。サーモスの熱い湯で濾したコーヒーを飲んだり、山頂部の樹木観察などをしたりして、静かな山の静かなひとときを楽しむ。 * 物語山南峰の山頂部で観察のできた木本(私のメモより): ミズナラ、クリ、(コ?)ハウチワカエデ、アカシデ、イヌシデ、トチノキ、ヤマザクラ、イタヤカエデ、(ケ?)ヤマハンノキ、リョウブ、ヤマツツジ(花)、(トウゴク?)ミツバツツジ、アカヤシオ(落花)、など。トカゲ(カナヘビ?)が辺りをうろちょろしている。 「コース上からはあの長方形の(埋蔵金があるかもしれない…登頂不可の)メンベ岩はなかなか見えないわねぇ~」などと会話しながら、来た道をゆっくりと下って、トイレとベンチのあるサンスポーツランドに下山したのは14時20分頃だった。それでもバスの時間には全然早すぎて、もっとゆっくりと下ればよかったね、と反省する。 サンスポーツランドは想像していたよりもけっこう広い施設で、入口には「下仁田勤労者体育施設」の表札が掲げられている。その誰もいないテニスコート前のベンチで約1時間を過ごし、15時32分発の下りのバスを待つ。数駅先(約5分間の乗車)の「荒船の湯前」で降ろしてもらい、まったりと湯に浸かって、それからのんびりと帰路に就く、というのが今回の計画だ。でも、もしかして(荒船の湯までは)歩いたほうが早かったかも…。 下仁田「荒船の湯」: 下仁田駅前から「しもにたバス」で30分弱。サンスポーツランド前バス停からは約5分。荒船山の北東、物語山の北西、の其々の山麓(市ノ萱川の左岸)に位置する日帰り温泉施設。泉質は「含二酸化炭素-ナトリウム-塩化物強塩冷鉱泉(中性高張性冷鉱泉)」で無色透明無味無臭。微かにヌルヌル感。この日は…現在修理中なのか何か問題があるのか…露天も内湯も閑散としていて、そのおかげでまったりと入浴できた。入浴後に館内のレストランで飲んだビールが五臓六腑に沁み込んだ。 「荒船の湯」のホームページ ●エピローグ 本文にも書きましたが、この日に利用したバスは小中高生や高齢者などは無料の「しもにた町営バス」で、「下仁田駅前」~「サンスポーツランド前」~「荒船の湯前」の区間を朝から延べ3回利用することになりました。運転手さんは同じ人で、3回目のころには“顔なじみ”になっていました。下仁田駅前でバスを降りるとき 「おかげさまで楽しい一日を過ごすことができました。ありがとうございます」 と告げたら、その(人の良さそうな中年の)運転手さんは満面の笑みを返してくれました。 下仁田駅での電車の待ち時間に、駅前の食堂「れすとらんヒロ」で刺身こんにゃくや味噌こんにゃくをつまみに、ここでもビール。もう仕合せいっぱいの一日でした。(*^^)v 佐知子の歌日記より 下仁田のスクールバスに便乗し 老い二人行く物語山 どこにある?埋蔵金の伝説を信じたいような山中ではある |