佐知子の歌日記・第五集
佐知子の短歌集1〜山に登れる喜び〜
ニヤリと君は斜里岳と言う
ギボウシ(南八ヶ岳)のピークにて

明日の晴れ念じて荷物整える 山に登れる喜び詰めて

雨止まず 登山中止の午前九時 濃いコーヒーを君と味わう

山の名を互いに忘れ二分後に ニヤリと君は「斜里岳・・・」と言う

荒天に予定の登山あきらめて 天気図にらみきゅうりを漬ける

地図広げあちこちの峰ゆびで追う 手招きするよな等高線

ポストには山小屋からの年賀状 遠い穂高は青空に映ゆ

母の日に黄色のTシャツを娘
(こ)にもらい山に行けよと後押しされぬ

 城峯山(奥武蔵)
庭先で夫の髪刈る老女おり 城峯の里風やわらかく
十月
(とつき)ぶり二人で歩く山道は 吐く息聞こえうれしはずかし
ドラえもん風のブランコ出しとくれ あの山この峰便りをのせて

 秩父御岳山(北奥秩)
身に痛し横断道路抱え持つ 秩父御岳
(おんたけ)切腹の山
下山後の温泉いそぐ君の脇 つくしんぼうの行列つづく

 箱根
苦しみや喜びさえも五百様
(よう) 羅漢の像が静かに見下ろす

 横尾山とカンマンボロン(奥秩父)
迷いつつやっと見つけた瑞牆の カンマンボロンご利益あるぞ
メガネかけ虫メガネ手に葉っぱ見る君はそう森林インストラクター

 金峰山(奥秩父)
しらびその林の床の幼木の みどり葉きらり受けつぐいのち

 浅間連峰2日間の山旅
歓声に応えるごとく浅間山 少しずつ出す細い噴煙
風強くからまつの葉の舞いにけり リュックの中に黄葉を見る

 父不見山(北秩父)
山並みがモヤっていても静けさがうれしい二人の父不見山
(ててみえずやま)

 足和田山
小春日に怪しく広がる大樹海 富士が両手で静寂つつむ

 
高山不動尊・関八州見晴台 1(奥武蔵)
山頂に観光雑誌もちながら ここはどこかとたずねるアベック
下山後の入浴はせず帰宅する 手締めをしない宴会のような

 高山不動尊・関八州見晴台 2(奥武蔵)
里あるき名残の梅の足元は おおいぬのふぐりの青い海
十四人の靴音ひびく里の道 つくしんぼうの行列は立つ

 官ノ倉山(奥武蔵)
大雪に倒れた杉をハードルの選手のように八回こえる
回り道しながら君は酒蔵へ 一升瓶をリュックに押し込む

 
古賀志山(前日光)
あかやしおうす桃いろにかがやけり おとめの頬のごとくやさしく
お土産はアスパラガスとエシャロット 道の駅にて夕餉のしたく

 鳴虫山(日光)
さみどりの田植え終えたる水面には白鷺一羽ゆるりと歩む
(車窓より)
新緑のまぶしき海にゆれている 紅紫の三葉つつじは

 
稲含山(西上州)
五分咲きのオオバアサガラ房垂れて はじらうような白い妖精
輝ける真珠のごとき小紫陽花 白くほのかに山道飾る

 
子持山(上州)
獅子岩や屏風岩を攀じ登る 鎖はゆれる梯子もゆれる

 
曽我丘陵(小田原)
冬晴れには富士や箱根がさぞかしと 酷暑に歩く曾我丘陵

 
尾瀬沼と大江湿原
雨のなか言葉少なく登る道 尾瀬沼見えてほほえむ仲間
星・平野・橘のみの姓で成る 峡深い里・檜枝岐村

 
赤鞍ヶ岳(道志山塊)
山道を霧につつまれ君と行く 赤鞍ガ岳を二人占めする

 
釈迦ヶ岳と黒岳(御坂山地)
方角を確かめ心で描いてみる 雲の扉をあけた富士山
長月に新緑の海をみたような 光にゆらぐ黒岳のブナ
赤白茶きのこが招く山の道 なめこらしきを夫が見つめる

 
安達太良山
ほんとうの空に流れる白すじの 雲のびやかに安達太良の山
前うしろ右も左もすきまなく 安達太良山の粧いにけり

 
諏訪山(西上州)
暁の首都高とばし山へ行く 東京タワーが笑っているよ
持ち帰ることのできない紅葉と瀬音を胸にきざむ諏訪山

 
本社ケ丸(御坂山地)
急坂をすべらぬように落ち葉踏む 日暮れ気になる晩秋の山
本社ケ丸 無事の下山に乾杯のビールするする喉すべるなり

 
頭高山(渋沢丘陵)
ひとすじの蜘蛛の糸にからみ揺る 頭高山
(ずっこうやま)の黄色い葉っぱ

 岩櫃山(上州)
白銀に浅間の峰は輝けり 君は何枚写真を撮るや
山里の凍れる道に腰をうち 帽子を夫に拾ってもらう
今回も風呂には寄らず帰宅する 山旅の汗を土産としよう
打ちつけた腰の痛みはやわらぐが 油断のキズにいらだっている

 
官ノ倉山(奥武蔵)
表裏無き両面羊歯の生い茂る 官ノ倉山に雪は積もらず
頂上より関東平野を見渡して 祠に祈る晦日正月

 
日連アルプス(中央沿線)
富士山のせめて肩まで見たいわと欲張りオバサン日連
(ひづれ)に一言

 
源氏山(鎌倉)
鎌倉の九十メートルの山に立ち まぁハイキングをしたことにする
「今日からが解禁日」との呼び声に 生シラス丼をするりと食べる

 
御岳山から大岳山(奥多摩)
奥多摩の眠れる山の沢に生う 花猫の目が春を知らせる

 
小仏城山(高尾)
濃く淡く新緑の葉は輝けり 奥高尾を君と浸りぬ
樹のかげに一人静はつややかな葉をひろげおり深い緑の
うつむいて木の下に咲く稚児百合の白い花びらかすかに揺れる

 
魚つき保安林・灯明山(真鶴半島)
真鶴のお林という森のなか 潮風あびて岬をめぐる
相模湾へすべり込むよな角度もつ丹沢山塊を真北に眺む
蓋はずし楊枝をくるりと回し食う さざえのつぼ焼き苦味がいいね

 
武甲山(秩父)
二度三度つついてくわえ蛾を食べる セグロセキレイ駅より飛びたつ
大規模な採掘中の武甲山 発破時刻の表示板あり
むき出しの石灰岩の山のうら みどりとりどり溢れ息づく

 
武川岳(奥武蔵)
猛暑日の武川岳は訓練と思うしかなく ひたすら登る
山頂の眺めはきかず 朝からのこの汗は何なのとタオルをしぼる

 
榛名山(上州)
榛名湖を囲む峰々粧いて 静かにそっと姿を映す

 
夕日岳(日光)
青空にうかぶ白雲つかもうと ダケカンバの枝八方に伸ぶ
白雲が幕を引くよにたれこめて 男体山の半身隠す

 
社山から黒檜山(日光)
秋深む広い笹原歩をあわせ 君と二人の展望の社山
一時間の道迷い経てたどりつく 手ごわい森の黒檜岳なり

 
箱根外輪山周廻歩道
昔から不動のスターの座におわす 秀峰富士を眺めつくせり

 
御前山から菊花山1(中央沿線)
うすあおく野辺に寄りそうホトケノザ うっすら霜のかんむりかぶる
くっきりとジグザグ道の刻まれる秀峰富士を夫と眺める
山々に囲まれ走る中央道 エンジン音のこだまが飛び交う

 
大楠山(三浦半島)
二次会へ行かず帰宅の午後の五時 介護モードに切り替えねば…ね

 
日連アルプス(中央沿線)
うめ・こぶし・はこべら白くはにかんで 藤野の里をゆるりと歩く
下山後に「うまッ!」と言ってめずらしく缶ビールをのむ 午後の四時半

 
西丹沢のミツバ岳から権現山(西丹沢)
みつまたの小花かたまりうつむいて ミツバ岳の嶺
(ね)黄色に照らす

 
三浦アルプス
蜘蛛の巣をかきわけ進む朝の道 君のうしろを離れず歩く
海風に揺れてたなびく椨
(タブノキ)の 落葉のゆくえをじっと見ており
* タブノキ(椨): クスノキ科の常緑広葉高木。
  1枚の葉の寿命は2〜3年で、毎年の春から初夏にかけてその半分近くを落葉させる。


 
蓼科山から北横岳(北八ヶ岳)
流れ星を三つも見たと言う夫よ我は夢でもぬか床まぜり
縞枯れのシラビソ林の足元に育つ若木のまぶしき緑
階段の下りに痛む両足を登山の土産と言いきかせてる

 
大弛峠から国師ヶ岳と北奥千丈岳(奥秩父)
ピカソでもゴッホでもない青の空 奥秩父にてゆるりと眺める
青春の18きっぷを持ちつつも譲られ座るシルバーシート

 
苗場山
苗場山のうっすら霜の木道に滑ってはしゃぐ六十女は
汽車ぽっぽのように肩寄せ足踏みし日の出を待てり六十女は
チョコや飴を山の空気はおいしいと残さず食べる六十女は
山深く谷の険しい秋山郷 追っ手のがれた落人が住む

 
倉見山(道志山塊)
雪はなく使わなかったアイゼンの品評会となる倉見山

 
鎌倉の衣張山
行き帰り電車の遅延にあう今日は13日の金曜ゆえか
雲かかり富士は見えぬが鎌倉の海を望めり衣張
(きぬばり)山頂
鯵寿司や鳩サブレーを買い求め娘一家を待つ午後六時

 
真鶴半島の灯明山(魚つき保安林)
岩につく海苔や貝殻むしりとり童女に帰る真鶴の磯
舟盛りの鯛や平目がピクピクとこちら見てるが我らは食べる

 
飯能アルプス(奥武蔵)
杉林は赤茶色して出番待つ こわごわ歩く花粉症の夫
山肌は大きくえぐられ奥武蔵のいのちを積み込むダンプカー
「ほら見て」と車内アナウスしようかな夕焼けを背に黒い富士山

 
ミツバ岳から権現山(西丹沢)
急坂をあえいで登るミツバ岳ご褒美に咲くミツマタの黄色
富士の嶺片翼白くそそり立ち五分ののちは雲にかくれる

 
棚山ハイキング(中央沿線)
淡く濃く みどりみどりの山並に 桜がふあーんとほほえんでいる
棚山の芽吹きのあおにつつまれて君との時間
(とき)をゆっくり登る
山梨の盆地や山を見渡して長湯になりぬ「ほったらかし温泉」
赤ワインの一升瓶を買い求め 夫は手早くリュックに詰める
新宿が近くになるとたまらずに目薬をさすドライアイの夫

 
湯ノ沢峠から大蔵高丸〜ハマイバ丸(大菩薩連嶺)
タクシーを使い標高かせぎおり大名登山のわが「山歩会」
「こんな緑があるんだね」と驚く 山道すべて新緑に染まる
山の中 おとなしくいた仲間らは下山のビールをいっきに飲みほす

 
飯盛山・高原ハイキング(信州)
レタス積む大型トラック通る横 コスモスゆれる野辺山の里
右左マツムシソウのむらさきに見とれて歩く飯盛山よ
赤とんぼ飯盛山の頂上にあまた飛び交う宴のように

 
三浦富士ハイキング(三浦半島)
海風とゆたかな光浴びている 照る葉の森の三浦富士山
照葉樹のあしもとノギク群れをなし小さき白はゆらゆらと咲く
京急の駅から二分の津久井川 浅瀬を歩く白鷺がいる
浜の風強き津久井を漕ぎいだす十一人のウインドサーファー

 
御前山から菊花山2(中央沿線)
青空とま白き富士を眺めつつおにぎりほおばる厄王山頂
本物を見たことはない菊花石 大月駅前山の名にあり

 
城山ハイキング(湯河原)
一つ鍋つつきあいつつ仲間との新年ことほぐ城山山頂

 
南伊豆歩道を歩く
まっ青な海をときおり眺めつつ200メートルの山を四つ越えたり
西風と波音まざるうなり声 ひと影のない冬 伊豆の浜
累積は1000メートルになるだろう小さき山でも四座登れば
焼き魚煮付けに刺身みなうまい なんてったって伊豆の民宿
われは膝 夫はふしぶし痛くなり 仲良くロボット歩行となりぬ

 
沼津アルプスハイキング
菫・木瓜登山道にあらわれて春を知らせる沼津アルプス
17年つづく登山の仲間との無事に下山のビールはうまし

 
奈良倉山ハイキング
新緑の樹の間より聴く「ホーホケキョ」「ホッホッケキョ」あり「ホーホッケッキョ」あり

富士山を見ながら食べるおにぎりはご馳走と思う君と並びて
なめらかに肌にしみいる小菅の湯 色白美人になれるねきっと

 
武奈ヶ岳登山と京都見物
比叡山の緑につつまれ延暦寺 シャトルバスにてお堂を巡る
雲多く琵琶湖は見えぬが新緑の武奈ヶ岳には小鳥の声多し
山靴のゴム底剥がれつま先がパクリとカバの口を開けたり
観光の人混みのなか早口の世界の言葉を聞く京都の駅に

 
帝釈山から田代山
春蝉の哀しい声を聞きながら檜枝岐へと静かに進む
梅雨に咲く帝釈山のオサバ草 白い小花はうつむきながら
ワタスゲの白がふわふわリンドウの青すがやかな田代湿原
遠近のメガネをかけず運転の気がつくまでの夫の五分間

 
湯ノ倉山登山・高清水自然公園・霧降高原
山肌は両面羊歯の海となり さみどりゆれる湯の倉山よ
目印の旗をたよりに進みゆくヒメサユリ咲く会津のこやま

 
天城山登山
ヒメシャラの白く小さな花びらが山道おおう万二郎岳
褐色のつるりとすべる肌をもつヒメシャラの幹 妖しく凉し
ドンドンと雷ひびく天城山 おそれ見上げる文月の天

 
高尾山(東京都八王子市)
「こんにちは」に「ニーハオ」と返す人もいて高尾山頂にぎわいにけり

 
荒山高原(赤城山)
雷の予報あったと大雨に下山をすれば晴れてくる空

 
栗駒山登山
念願の栗駒山が車窓より見えたときから登山がはじまる
陽を浴びて紅や黄の葉の色は濃く山肌かがやく栗駒山よ
足もつれ栗駒山の沢水に腰まで浸かる六十ウン歳
あらあらら日差しもどりて錦秋の須川渓谷撮る君いそがし
もしかして硫黄かと嗅ぐ山道は すなわち湯の道 須川温泉
たっぷりと栗駒山を登っても次の山へと夢はひろがる

 
赤城山登山
汗流したどりついての頂上は雲のひろがる赤城山なり

 
高麗山ハイキング(大磯丘陵・湘南アルプス)
高麗山の展望台より見る海のずうっと遠くにアメリカがある
黒に白みどりの石を拾う昼 大磯の浜を夫と歩めば
味噌汁と煮物で食する冬瓜がフレンチのジュレとなり現る

 
尾続山〜コヤシロ山〜要害山(上野原市)
やわらかい土と落ち葉の尾続山 足から伝わるやすらぎの道

 
三国山稜ハイキング
富士山を巡る路線のバスなれば四ヶ国語のアナウンスである
富士山のくの字くの字の登山道 くっきりと見ゆ三国山稜
一日中富士を眺めて歩いてる そのしあわせをリュックに詰めて
すっぽりとすすきの帽子かぶりたる鉄砲木の頭が茶に染まる

 
鋸山ハイキング
釣り船をあまたかきわけすいすいと東京湾のフェリーは進む
まっすぐに岩切られたり職人のわざと知恵あり鋸山に
両親に会えただろうか男の子 元気よすぎる一人歩きの

 
大多摩ウォーキングトレイル
渓谷の水の澄みたる多摩川を河口に住めるわれは羨む
平日の日帰り温泉ひと気なく手足伸ばしてただただ浸る
白髪を三つ編みにして山おんな赤いザックをひょいと担げり

平成25年から30年にかけての、山歩きに関する短歌を編集しました。

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